トシュチニェツ文化

トシュチニェツ文化：青銅器時代の東ヨーロッパを彩る文化

トシュチニェツ文化は、紀元前1700年から紀元前1200年にかけて、中央ヨーロッパ東部から東ヨーロッパ西部に広がった青銅器時代の文化です。ポーランドをその中心とし、オドラ川西岸からドニエプル川中流域にまで及ぶ広大な地域にその痕跡を残しています。ほぼ同時期、同地域に存在した球状アンフォラ文化と多くの共通点を持つ一方、西北端はオドラ川を境にしています。

この文化は、後のチェルノレス文化と直接的につながっており、スラヴ語派社会の発展に大きな影響を与えたと考えられています。多くの場合、南東に位置するコマロフ文化とともにトシュチニェツ・コマロフ文化複合として扱われ、プロト・スラヴ人（スラヴ語派の祖先となる言語を話した人々）の文化とみなされています。

遺跡：広大な地域に点在する生活の痕跡

トシュチニェツ文化の遺跡は、ポーランド全土、特にクヤヴィ＝ポモージェ県、マウォポルスカ県、マゾフシェ県、ポドラシェ県南部などで数多く発見されています。ウクライナ西部でもその存在が確認されています。

代表的な遺跡としては、シフィェンティクシシュ県のズウォタ村とヴェンツワヴィツェ村、マウォポルスカ県のゴシツェ村、ルブリン県のボンディシュ村などが挙げられます。ボンディシュ村近郊のグチュフ地区には、有名なクルガン墳墓が存在します。また、ズウォタ村のスタヴィシュツェ地区やラヴァ・マゾヴィエツカ町からは、金や銀の装飾品を含む貴重な出土品が発見されています。これらの遺跡から、当時の生活様式や社会構造についての貴重な情報が得られています。

生活：湖畔の集落、混合農業、そして青銅器

トシュチニェツ文化の集落は、湖畔に10～15戸ほどの家々が集まって形成されていました。家の大きさは約10m×5m程度と推定されています。経済活動は混合農業が中心で、家畜は牛が最も多く、次いで豚が飼育されていました。青銅器やフリント（石英の一種）製の道具、例えば鎌などが使用されていたことが分かっています。陶器には、縄目文土器文化からの伝統的な特徴が見られます。

埋葬：多様な形態と父系制社会の痕跡

従来、トシュチニェツ文化の埋葬方法としては、土葬と火葬の両方が行われていたと考えられており、平坦な墓地が特徴とされてきました。しかし、近年、ヴィエルコポルスカ県でクルガン墳墓が発見されたことをきっかけに、他の地域でも同様の墳墓が見つかるようになり、この認識は修正されています。ウッチ県のブウァシュキ村のクルガン墳墓は土葬、グチュフ村のものは火葬墓であることが確認されています。これらの墳墓は家族墓と推定されており、中央に男性が埋葬されている事例が多いことから、父系社会であった可能性が示唆されています。

起源と発展：多様な文化群からの影響と独自の展開

トシュチニェツ文化は、中央ヨーロッパにおける縄目文土器文化から発展したウーニェチツェ文化、特にその東部地方文化（ミェシャノヴィツェ文化、ストシジョフスカ文化、イヴィエンスカ文化、ドブレ群など）を起源とします。これらの文化群から派生し、ポーランド中部から南東部にかけて広範に発展したトシュチニェツ文化西部群は、文化の中心地であり、ブク川を境に東部群と接していました。

西部群では、骨壺墓地文化の東部群であるルサチア文化が発展し、ポーランド全土に広がっていきました。ルサチア文化は、東方のプロトスラヴ系要素と西方のプロトゲルマン系要素を融合した独自の文化として発展しました。東部群の地域は「北カルパチア墳墓文化」とも呼ばれ、地域差はあれど、ベログルードフ文化やコマロフ文化を経てチェルノレス文化へと移行していったと考えられています。

トシュチニェツ文化は、その広大な地域への影響、独自の文化様式、そして後のスラヴ文化への繋がりという点において、東ヨーロッパの青銅器時代を理解する上で非常に重要な文化です。今後の研究によって、さらに多くの知見が得られることが期待されます。

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