ルサチア文化

ルサチア文化：中央ヨーロッパの青銅器・鉄器時代文化

ルサチア文化（Lusatian culture）は、紀元前1300年頃～紀元前500年頃にかけて、現在のポーランドを主な中心地とし、チェコ、スロバキア、ドイツ東部、ウクライナの一部地域に広がった文化です。日本ではラウジッツ文化とも呼ばれます。この名称は、ドイツ東部からポーランド西部にかけての地域をラテン語で指す「Lusatia」（ドイツ語でラウジッツ、ポーランド語やソルブ語でウジツェ）に由来します。

ルサチア文化は、中央ヨーロッパの青銅器時代文化の一つである骨壺墓地文化（Urnenfelderkultur）の東部グループに属します。ポーランドにおけるウーニェチツェ文化（Únětice culture）の発展型であるトシュチニェツ文化の後継文化として位置づけられます。トシュチニェツ文化は、プロト・スラヴ人と関連付けられることが多く、広大な地域に広がっていました。一方、ウーニェチツェ文化の西部は、墳墓文化を経て骨壺墓地文化の西部グループを形成し、ルサチア文化と並存しました。

ルサチア文化の担い手については、イリュリア人と推測する説があります。彼らのその後については、南方への移住説と、一部の南方移住と残留、そしてポメラニア文化への移行説があります。ルサチア文化は、少なくともプレ・スラヴ祖語を話す集団の文化であったと考えられています。

プレ・スラヴ祖語を話す集団は、将来のスラヴ人の基層を形成する要素ではありましたが、その時点ではまだスラヴ語派に属していない、もしくはスラヴ語派自体が成立していない可能性があります。同様に、プレ・ゲルマン祖語を話す集団であった可能性も示唆されます。仮にイリュリア人がルサチア文化の担い手だった場合、南方移住以前のイリュリア語は、スラヴ語派、ゲルマン語派、その他の語派にも属さない言語だったと考えられます。

同時代の東方には、既にスラヴ語派の文化と推定されるチェルノレス文化が存在したことから、スラヴ語派は既に成立していた可能性が高いです。しかし、ルサチア文化の住民がスラヴ語派であったという決定的な証拠はありません。ルサチア文化は後にチェルノレス文化の影響を受け、ポメラニア文化へと発展しました。また、ルサチア文化の先駆文化は、プロト・スラヴ人の文化とされるトシュチニェツ文化の西方グループであると広く考えられています。そのため、ルサチア文化の住民の言語はプレ・スラヴ祖語であった可能性が高いものの、ゲルマン語派、ケルト語派など、他の語派であった可能性も否定できません。

イリュリア語は、ケントゥム語派とサテム語派の両方の要素を強く示しており、現在も語派分類に関して議論が続いています。スラヴ祖語は、東方からのイラン語派遊牧民との交流により、一部の音声や語彙がケントゥム語派からサテム語派へと変化したとされており、イリュリア語におけるサテム語派要素は注目に値します。

過去には、イリュリア語とゴート語の類似性に関する研究が盛んに行われましたが、イリュリア語がゲルマン語派であった可能性は非常に低いと考えられています。これは、ルサチア文化の時代にはゲルマン語派が成立していなかった可能性が高いからです。現在の研究では、ゲルマン語派は紀元前5世紀頃、ヤストルフ文化において成立した比較的新しい語派だと考えられています。

骨壺墓地文化の中心地であるドイツ中北部は、古くからインド・ヨーロッパ語族の拡散の中心地域であり、「インド・ヨーロッパ語族の第二の原郷」とも呼ばれています。ルサチア文化は後期になると、東隣のスキュティア地方のチェルノレス文化の影響を強く受け、ポメラニア文化へと発展していきました。

ポーランドのビスクピン遺跡は、ルサチア文化を代表する遺跡として有名です。この時代の北欧との交流も注目に値します。スウェーデン東部との間で、装飾品、陶器、家屋構造、墓制などに深い交流の痕跡が見られ、特にエリート層間の交流が盛んだったと考えられています。この交流は初期鉄器時代まで続きました。

ゴート族の起源をスウェーデン東部とする説（ゴート起源説）は、近年の研究により否定されており、ヴィエルバルク文化はバルト海南岸の土着文化に由来すると推定されています。ゴート起源説は、4世紀に捏造されたか、伝統的な俗説である可能性が高いです。しかし、ルサチア文化とスカンジナヴィア半島東部との間の長期にわたる交流は事実として認められています。ゴート族は、ポメラニア地方のルサチア文化、あるいはその後のポメラニア文化から発生した地方文化の中で成立し、後に移動を開始して発展していったと考えられています。

ルサチア文化は、北欧青銅器時代の文化の一つとして見なされることもあり、その遺物には、ハルシュタット文化やラ・テーヌ文化の影響も認められます。これらの多様な文化的交流は、ルサチア文化の複雑さと豊かさを示しています。

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