トバイアス・マッセイ

トバイアス・オーガスタス・マッセイ（Tobias Augustus Matthay, 1858年2月19日 - 1945年12月15日）は、19世紀末から20世紀にかけて活躍したイングランド出身のピアニスト、教育者、および作曲家です。特にピアノ教育の分野で革新的な手法を開発し、多大な功績を残したことで知られています。

ロンドンに生を受けたマッセイは、北ドイツから移住しイギリスに帰化した両親のもとで育ちました。音楽の才能を見出された彼は、王立音楽アカデミーに進み、著名なウィリアム・スタンデール・ベネットに師事してその技量を磨きました。自身の研鑽を積む傍ら、アカデミーには1876年から1925年までの長きにわたり、ピアノ特科の教授として後進の指導にあたりました。また、音楽界への貢献は教育だけにとどまらず、1905年にはフレデリック・コーダー、ジョン・ブラックウッド・マキュアンら同志と共に、英国作曲家協会の設立にも尽力しています。

マッセイの最も特筆すべき業績は、独自のピアノ教育法である「マッセイ・システム」を確立したことです。1900年に自身のピアノ学校を開設すると、彼はこのシステムを基盤とした指導法を展開し、たちまちその名を知られるようになりました。このシステムは、適切なピアノのタッチがいかにして生み出されるか、また腕や身体の動きがいかに演奏に関わるかを科学的に分析し、体系化したものでした。彼はその理論を詳細に解説した技術教本を数多く出版し、これらは国際的な評価を獲得しました。これらの著作や指導法を通じて、マッセイはピアノ演奏の技術と表現に対する新たな視点をもたらしたのです。

彼の指導のもとからは、20世紀のイギリスにおけるピアノ演奏の規範を形作ったと言われるほど、数多くの傑出したピアニストたちが巣立っていきました。その門下生には、ヨーク・ボウエン、マイラ・ヘス、クリフォード・カーゾン、モーラ・リンパニー、ユーニス・ノートン、リトル・パウエル、イレーヌ・シャーラー、リリアス・マッキノン、ガイ・ジョンソン、ヴィヴィアン・ラングリッシュ、ハリエット・コーエンといった錚々たる顔ぶれが含まれます。また、カナダのピアニストであるハリー・ディーンや、イギリスの著名な指揮者アーネスト・リードも彼の教えを受けています。これらの才能豊かな弟子たちの活躍を通じて、マッセイの教育哲学は広く浸透し、世代を超えて影響を与え続けました。

一方で、マッセイ自身も多数のピアノ作品を作曲しましたが、教育者としての輝かしい功績の影に隠れ、今日ではさほど広く知られているわけではありません。

私生活では、1893年に音楽家マージョリー・ケネディー＝フレイサーの妹であるジェシー・ケネディーと結婚しました。妻ジェシーは1937年に先立ちました。

トバイアス・オーガスタス・マッセイは、1945年12月15日、ヘイザルミア近郊にある自宅、ハイ・マーレー・マノーにて87年の生涯を閉じました。

主な著書

『The Act Of Touch In All Its Diversity: An Analysis And Synthesis Of Pianoforte Tone Production』 (1903)
『The First Principles of Pianoforte Playing』 (1905)
『Relaxation Studies』 (1908)
『The Child's First Steps in Piano Playing』
『The Principles of Fingering and Laws of Pedaling』
『Forearm Rotation Principle』
『The Principles of Teaching Interpretation』
『The Slur or Couplet of Notes in all its Variety, its Interpretation and Execution』 (1928)
* 『The Visible And Invisible In Pianoforte Technique』 (1947)

教育者として、マッセイは20世紀のピアノ演奏技術および教育法に革新をもたらし、イギリス音楽史において極めて重要な人物として位置づけられています。

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