トマス・カルペパー

トマス・カルペパー：ヘンリー8世とキャサリン・ハワードの影に潜む愛人

16世紀イングランド。権力と陰謀が渦巻くヘンリー8世の宮廷で、一人の廷臣が悲劇的な最期を遂げました。トマス・カルペパーです。彼は王の寵愛を受け、華やかな地位を築き上げたものの、王の5番目の王妃キャサリン・ハワードとの禁断の愛によって破滅の道を辿ります。

ハワード家との繋がりと王の寵臣

カルペパーは、没落したトマス・ウルジー枢機卿の後、台頭してきたハワード家の遠縁でした。王妃キャサリン・ハワードとは7代前に共通の祖先を持ち、その血縁関係が彼を宮廷へと導いた可能性があります。

彼は美青年として知られ、ヘンリー8世の信頼を得て、重要な役職を歴任しました。武器庫の管理、王の衣裳係を務め、王の寝室で休息する特権を与えられたほどです。また、ヘンリー8世の4番目の王妃アン・オブ・クレーブスをドイツから迎え入れるという重要な任務にも携わりました。

彼の影響力は絶大で、庭師の妻を強姦したという嫌疑で訴えられた際にも、王の赦免を得ています。ただし、これは同名の兄の罪の可能性も指摘されており、真実は闇の中です。1537年から1541年にかけて、王から屋敷や領地などを与えられ、その富と地位は着実に盤石なものとなっていきました。

キャサリン・ハワードとの密通

カルペパーは王妃キャサリン・ハワードとその侍女たちと近しい関係にありました。1541年、ヘンリー8世がドーバーへ赴き、王妃をグリニッジに残した際に、二人の関係が始まったとされています。

王妃の侍女であったジェーン・ブーリン（ロッチフォード子爵未亡人）が、二人の仲立ちをしたと伝えられています。同年、スコットランド王ジェームズ5世との会見のため、王と王妃がヨークへ旅した際にも、彼らは王妃の寝室で密会を重ねました。この密会を裏付ける王妃からの手紙が後に発見され、決定的な証拠となりました。

当時、ヘンリー8世は健康を害しており、後継ぎとなる王子エドワードはまだ幼かったため、王妃の寵愛を得ることはカルペパーの地位をさらに高める絶好の機会だったはずです。しかし、その関係は破滅への道を歩み始める序章だったのです。

暴露と悲劇的な結末

王妃とカルペパーの密通の噂は、カンタベリー大司教トマス・クランマーの耳に届きました。彼らは逮捕され、カルペパーの部屋を捜索した結果、王妃からの手紙が発見されました。これが、彼らの密通の決定的な証拠となりました。

肉体関係の有無は別として、王妃がカルペパーを愛していたこと、そしてジェーン・ブーリンがその仲立ちをしていたことは明らかでした。王妃は側近に関係を隠そうとはしておらず、むしろ側近たちは保身のため、王妃を陥れる証言を行った可能性があります。

カルペパーは拷問を受け、王妃との密通を自供しました。同様に密通罪で告発されたフランシス・デレハムと共に死刑を宣告されます。しかし、王の慈悲により、カルペパーの刑は首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑から斬首へと減刑されました。それでも、王妃キャサリン、ジェーン・ブーリン、そしてデレハムと共に、彼は処刑台へと送られたのです。

トマス・カルペパーの生涯は、王の寵臣としての栄光と、禁断の愛による悲劇的な最期を鮮やかに描き出しています。彼の物語は、権力と欲望、そして運命の残酷さを私たちに突きつけます。彼の死は、ヘンリー8世時代の宮廷の暗部を改めて浮き彫りにする、忘れられない出来事だったと言えるでしょう。

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