トマス・ハインズ

トマス・ハインズ：南北戦争を駆け抜けた南軍スパイの生涯

トマス・ハインズ（Thomas Hines, 1838年10月8日 - 1898年1月23日）は、アメリカ南北戦争において南軍のスパイとして名を馳せた人物です。ケンタッキー州バトラー郡で生まれ、その生涯は波乱に満ちたものでした。

初期の経歴

ハインズはウォーレン・W・ハインズとサラ・カーソン・ハインズ夫妻の息子として誕生しました。学校教育は必ずしも十分ではありませんでしたが、公立学校にも通っていました。身長は175cm、体重は63.5kgと、痩せ型で親しみやすい外見だったと伝えられています。友人によると、その声は「洗練された婦人」のようだったそうです。女性、音楽、馬を好む一面もありました。

1859年、ケンタッキー州ラグランジュのマソニック大学で助教授として教鞭を執りました。しかし、南北戦争の勃発により、1861年9月に南軍に入隊しました。

南北戦争での活躍

戦争初期

ハインズは従兄弟たちと共に南軍に参加しました。当初は「バックナーのガイド」という部隊を率い、その冷静さと指導力で周囲の信頼を得ました。1861年11月には中尉に昇進し、同年12月には北軍の前哨基地への攻撃を成功させています。しかし、連合国ケンタッキー州政府がボーリンググリーンから逃亡したため、ハインズはケンタッキー以外での戦闘を望まず、部隊は解散しました。

その後、ハインズはジョン・ハント・モーガン准将の部隊に加わり、第9ケンタッキー騎兵連隊の兵卒として再入隊しました。モーガンはその才能を認め、ハインズを大尉に任命。ハインズはスパイとして単独で行動し、ケンタッキー州内での秘密任務に従事しました。また、子供の頃からの恋人であり、後に妻となるナンシー・スプロールを訪ねることもありました。

1863年

1863年6月、ハインズは北軍兵になりすまし、25名の南軍兵を率いてインディアナ州に侵入しました。これはモーガンの襲撃に先立ち、現地のコパーヘッド（北部における戦争反対派）の支持を取り付けるためのものでした。しかし、コパーヘッドからの公式な支援は得られず、帰還途中に見破られ、オハイオ川を泳いで逃げることとなりました。

1週間後、ハインズはブランデンバーグでモーガン将軍と合流。疲労困憊した姿で現れたハインズを、モーガン副官のバジル・デューク大佐は「最も疲れて気の抜けた無害の若者」と評しています。ハインズはモーガンの襲撃作戦において、オハイオ川を渡るための船を確保するなどの重要な役割を果たしました。

モーガンと共に捕らえられたハインズは、オハイオ刑務所に収監されます。しかし、ハインズは小説『レ・ミゼラブル』から着想を得て、独房の下の空気室を利用してトンネルを掘り、モーガンを含む7名で脱獄に成功しました。脱獄後、ハインズは看守に宛てて「忍耐と努力は報われる」と書かれたメモを残しています。

北西部陰謀

ハインズはリッチモンドでジェファーソン・デイヴィス大統領に、北部州で混乱を引き起こす計画を提案しました。デイヴィスはこれを承認し、ハインズはカナダを拠点に作戦を指揮することになりました。

1864年秋、ハインズはシカゴのキャンプ・ダグラスで捕らえられている南軍兵の解放を計画しましたが、コパーヘッドの協力が得られず、作戦は失敗に終わりました。その後も、ハインズは捕虜の脱走計画を試みましたが、いずれも成功しませんでした。

ハインズは、シカゴでの潜伏中に家宅捜索を逃れるため、マットレスに隠れたり、雨の日に訪問客に紛れて脱出するなど、幾度も危機を乗り越えました。

戦争の終盤

1864年10月、ハインズは密かにインディアナ州を横断し、シンシナティを訪れます。そこで、ナンシー・スプロールがオハイオの修道院にいることを知り、彼女を連れ出して結婚。しかし、妻の父はハインズの戦争中の活動を理由に、結婚を延期することを望んでいました。

1865年4月、ハインズはミシガン州デトロイトで、リンカーン暗殺犯とされたジョン・ウィルクス・ブースと間違えられ、渡し船の船長に銃を突きつけてカナダに逃亡しました。この事件は、ブースがカナダに逃げたという噂を広める一因となりました。

戦後

ハインズはトロントで法律を学び、1865年7月にはアメリカ合衆国への忠誠書に署名しました。その後、メンフィスで弁護士資格を取得し、新聞編集者も務めました。1867年にはボーリンググリーンに移り住み、弁護士としての活動を始めました。

1878年にはケンタッキー州控訴裁判所の判事に選出され、1884年から1886年までは首席判事を務めました。ハインズは、法的な偏見を持たない人物として評価されました。

1879年、ハインズはケンタッキー州議会議事堂で、同僚のジョン・ミルトン・エリオット判事が暗殺される事件を目撃しました。

晩年、ハインズはフランクフォートで法律実務を続けました。1886年には、雑誌に北西部陰謀に関する記事を執筆しましたが、参加者の実名公開は控えています。

1898年、ハインズはフランクフォートで死去し、ボーリンググリーンのフェアビュー墓地に埋葬されました。

誤解

ハインズの功績に関する歴史銘板に、いくつかの誤った情報が記載されていることがあります。例えば、1862年にインディアナ州に侵入したとされているものがありますが、正しくは1863年の出来事です。また、ボーリンググリーンの南軍記念碑にある銘板には、ハインズが竣工式前に死亡したとされていますが、実際にはその20年以上後に亡くなっています。

トマス・ハインズは、南北戦争を駆け抜けた勇敢なスパイであると同時に、法律家としても優れた才能を発揮した人物でした。彼の波乱万丈な生涯は、後世に語り継がれるべき歴史の一部と言えるでしょう。

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