モーガンの襲撃

モーガンの襲撃：南北戦争下の大胆な騎行

モーガンの襲撃は、南北戦争中の1863年6月11日から7月26日にかけて、南軍のジョン・ハント・モーガン准将が率いる騎兵隊が行った大胆な侵攻作戦です。この作戦は、南軍の注意を逸らす陽動として開始されましたが、モーガン自身の思惑により、インディアナ州やオハイオ州といった北部深くへの侵入へと発展しました。

襲撃の背景

モーガン率いる2,460名の騎兵隊は、テネシー州を出発し、ケンタッキー州へと進軍しました。当初の目的は、南軍のブラクストン・ブラッグ将軍が北軍の注意を逸らすことであり、モーガン自身もその意図を共有していました。しかし、モーガンは密かに、北部へ侵入し戦争の恐怖を広めたいという野心を抱いていました。ブラッグ将軍はモーガンにケンタッキー州を自由に騎り回る裁量権を与えましたが、オハイオ川を越えることは厳禁していました。しかし、北軍がブラッグ軍への攻撃を開始すると、モーガンは北部侵攻の好機と捉え、オハイオ川を越えることを決意しました。

ケンタッキー州での戦い

7月2日、モーガンはケンタッキー州に侵入し、市民からの歓迎を受けながら進軍しました。カンバーランド川を渡り、グリーン川で北軍の連隊と交戦しました。7月4日のテブスベンドの戦いでは、北軍部隊を破り、レバノンの戦いでは守備隊を急襲し占拠しました。しかし、この戦闘でモーガンの弟トーマスが戦死するという悲劇に見舞われました。弟の死を悼みながらもモーガンは進軍を続け、スプリングフィールド、バーズタウン、ガーネッツビルを通過し、ルイビルへと向かいました。しかし、ルイビル市の手前で進路を北西に変え、オハイオ川を目指しました。

インディアナ州への侵入

モーガンはスパイをインディアナ州に送り込み、現地の協力者を探しましたが、十分な支援は得られませんでした。7月8日、モーガン隊はオハイオ川沿いの町ブランデンバーグに到着し、2隻の蒸気船を奪取しました。そして、ブラッグの命令に背き、インディアナ州へと渡河しました。インディアナ州知事は大慌てで民兵組織を編成し、モーガン隊の進軍を遅らせようとしました。7月9日、コリドンの戦いで、モーガン隊は民兵隊を破り、町を占拠しました。この戦いで、多数の民兵が捕虜となり、また、モーガン隊も多くの死傷者を出しました。その後、モーガン隊はビエンナに到達し、鉄道や電信線を破壊しました。さらに、レキシントン、ニューペキン、セイラムなどを襲撃しました。セイラムでは、補給所や鉄道橋を焼き払い、店舗を略奪し、地域住民から税金を徴収しました。しかし、インディアナ州を離れる頃には、北軍騎兵隊が背後に迫っていました。

オハイオ州での戦いと降伏

7月13日、モーガン隊はオハイオ州に侵入し、橋や鉄道、政府の貯蔵所を破壊しました。モーガンの襲撃はオハイオ州南部に恐怖を広げました。モーガンはバッフィントン島の浅瀬からケンタッキー州へ戻ろうとしましたが、北軍の砲艦と騎兵隊に阻止されました。7月19日のバッフィントン島の戦いで、モーガン隊は決定的な敗北を喫し、多くの兵士が捕虜となりました。モーガンは残った部隊と共にオハイオ州内陸部へと逃れましたが、追跡は厳しく、部隊は次第に縮小しました。7月26日、モーガン隊はセイリーンビルの戦いで再び敗北し、最終的にウェストポイントで降伏しました。

襲撃の成果と影響

モーガンの襲撃は、北部を大いに混乱させ、多くの北軍兵を追跡に動員させました。34の橋を破壊し、60箇所以上の鉄道を遮断するなど、多大な被害をもたらしました。しかし、この襲撃は南部にとっても、ゲティスバーグやビックスバーグと並ぶ敗戦の一つとなり、戦況を好転させることはありませんでした。モーガン自身も、脱走に成功したものの、その1年後に北軍兵に殺害されました。しかし、モーガンの襲撃は、戦時下での大胆な騎行として、人々の記憶に残り続けました。

記念と観光

現在、ケンタッキー州とインディアナ州には、モーガンの襲撃経路を辿る観光ルート「ジョン・ハント・モーガン史跡の道」が設けられ、多くの観光客が訪れます。オハイオ州では、同様のルートは設定されていませんが、100以上の史跡表示が設置されています。また、2001年には、モーガンが収監されていたオハイオ州立刑務所の跡地に史跡表示が設置されました。1910年には、ケンタッキー州レキシントンにモーガンの騎馬像が建てられました。

まとめ

モーガンの襲撃は、南軍の戦略的な意図を超えた、大胆で冒険的な作戦でした。その結果は、南軍の敗北を決定づける要因の一つとなりましたが、その後の歴史において、多くの人々に語り継がれる出来事となりました。この襲撃は、南北戦争の複雑さを象徴するエピソードの一つであり、歴史を学ぶ上で重要な要素となっています。

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