トミスラヴ (クロアチア王)

トミスラヴ：クロアチア王国初代国王の生涯と業績

トミスラヴ（在位：910年頃 - 928年以降）は、クロアチア王国の初代国王であり、クロアチアの歴史において重要な人物です。彼の生涯は史料に乏しく、不明な点も多いですが、その治世下でクロアチアは周辺諸国との関係を深め、領土を拡大しました。

即位前後のクロアチア

10世紀初頭、クロアチア周辺では様々な勢力が台頭していました。北方のハンガリー人はカルパチア盆地を征服後、パンノニア公国を圧迫し、クロアチアにも攻撃を仕掛けました。しかし、トミスラヴ時代のクロアチアはハンガリーとの戦いで勝利を重ね、国境線を維持することに成功しました。それどころか、崩壊したパンノニア公国の一部に進出し、シサクなどの都市を獲得するに至りました。

東方ではブルガリア帝国が勢力を拡大していました。当初、クロアチアとブルガリアの関係は良好でしたが、シメオン1世の即位後、両国関係は悪化し、最終的に戦争へと発展しました。

生涯

トミスラヴの出自は定かではありませんが、トルピミロヴィチ家の出身であると考えられています。910年頃にクロアチア公に即位したとされ、その治世下でクロアチアは着実に力をつけていきました。当時のクロアチアは、南部・中央クロアチアの大部分、ダルマチア沿岸部、ヘルツェゴビナ西部、ボスニア北西部の一部を含む広大な領域を支配していました。

ビザンツ皇帝コンスタンティノス7世の記録によれば、当時のクロアチアは10万の歩兵、6万の騎兵、80隻の大型艦船、100隻の小型艦船からなる強大な軍事力を有していたとされています。ただし、この数値は誇張されている可能性も指摘されています。

戴冠とクロアチア王国の成立

925年、トミスラヴはクロアチア王に即位し、クロアチア王国が成立しました。彼が教皇から「王」の称号を授与された最初のクロアチアの支配者です。戴冠式の場所や時期、誰が戴冠したかなど、不明な点が多く残されています。

スプリト教会会議

925年、教皇ヨハネス10世はスプリトで教会会議を開催し、教会管轄権やスラヴ語典礼の使用について議論しました。トミスラヴもこの会議に出席し、「クロアチア人とダルマチア人の地域」を統治する「王」として記録されています。会議では、スラヴ語の使用が一部認められたものの、高位聖職者への道は閉ざされるという決定がなされました。

ブルガリアとの戦争

トミスラヴの治世下、クロアチアはブルガリアと激しい戦いを繰り広げました。926年にはボスニア高地でブルガリア軍を破り、その勢力を大きく削ぐことに成功しました。927年にシメオン1世が没した後、両国は和平を結びました。

トミスラヴは928年以降、歴史の表舞台から姿を消し、その後の消息は不明です。

後世の評価

トミスラヴは、統一クロアチア国家の建国者として、クロアチア国民から敬愛されています。首都ザグレブには彼の名を冠した広場があり、像が建てられています。また、ボスニア・ヘルツェゴビナの都市ドゥヴノは、彼の功績を称え「トミスラヴグラード（トミスラヴの都市）」と改名されました。

1994年に発行されたクロアチアのクーナ紙幣には、ザグレブのトミスラヴ像が描かれています。また、クロアチアで醸造されるビールにも彼の名前が冠されるなど、その名は現代に至るまで広く親しまれています。


トミスラヴ王は、クロアチアの歴史において重要な転換期を築き、その後の国家の発展に大きく貢献した人物として、永く記憶されるでしょう。

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