トム・パーカー (マネージャー)

トマス・アンドリュー・"トム"・パーカー大佐：伝説のマネージャーの光と影

トマス・アンドリュー・"トム"・パーカー大佐（Colonel Thomas Andrew "Tom" Parker、1909年6月26日 - 1997年1月21日）は、その強烈な個性と手腕で、エルヴィス・プレスリーを世界的なスーパースターへと押し上げた伝説的な芸能プロモーターです。しかし、その一方で、その手法はしばしば批判の対象となり、彼の生涯は光と影に彩られています。

生い立ちとアメリカへの密入国

パーカーは、アンドレアス・コルネリス・ファン・カウクとして、オランダのブレダでカトリック系の大家族に生まれました。幼少期から、謝肉祭で呼び込みとして働き、芸能界で生き抜くための基礎を築きました。15歳で船員となり、ロッテルダムへ移住しますが、アメリカンドリームを抱き、17歳で密入国を決意します。最初の渡米では、ショトーカ運動のテントショーに参加しましたが、後にオランダへ一時帰国。その後、再びアメリカへ密入国しています。この時期、ブレダで殺人事件に関与した疑いも指摘されており、それが密入国の動機の一つだった可能性も指摘されています。

アメリカでの軍歴と芸能界への足掛かり

パーカーは、密入国者であることを隠すためにアメリカ陸軍に志願し、面接官の名前であるトム・パーカーを名乗るようになりました。ハワイやフロリダの基地に勤務した後、無許可離隊で精神病院に入院し、除隊処分を受けました。除隊後、パーカーはカーニバルやセールスマンなど様々な職を転々としながら、人脈を築いていきました。

1933年にはマリー・フランシス・モットと結婚し、世界恐慌の中、二人で職を求めて各地を転々とし、時には詐欺まがいの行為も行いながら、生活を支えました。その後、パーカーは1938年に人気歌手ジーン・オースティンのプロモーターとなり、音楽業界でのキャリアをスタートさせます。彼はカーニバルでの経験を活かし、群衆を惹きつける手腕を発揮しました。しかし、その関心はマネジメントへと移っていきます。

パーカーは、ヒルズボロ郡人道協会での職を経て、1945年にエディ・アーノルドのマネージャーに就任。その後、ルイジアナ州知事ジミー・デイヴィスの選挙運動に貢献したことで、名誉大佐の称号を得ました。これが、「カーネル・パーカー」という通称の由来です。1952年には、トミー・サンズを売り出しましたが、その才能に限界を感じ、より大きな成功を求めてエルヴィス・プレスリーに目を付けました。

エルヴィス・プレスリーとの出会いとマネジメント

1955年、パーカーはエルヴィス・プレスリーの才能を見抜き、マネジメントを開始します。当初、プレスリーのマネージャーはスコティ・ムーアでしたが、パーカーは徐々に影響力を強めていきます。1955年夏には特別顧問となり、1956年3月には正式なマネージャーとなりました。パーカーは、RCAレコードとプレスリーとの契約を取り付け、デビュー曲「ハートブレイク・ホテル」は爆発的なヒットを記録しました。

パーカーは、プレスリーをテレビ番組や映画に出演させ、関連商品を開発するなど、メディアミックス戦略を徹底的に推し進めました。しかし、その一方で、プレスリーのキャリアをコントロールし、その取り分は最大で50％に達したとされています。パーカーは、1956年に映画「やさしく愛して」に出演させることに成功し、プレスリーをスターダムに押し上げました。しかし、ラスベガスでの公演では、若者向けのプレスリーのパフォーマンスが中高年層には受け入れられず、失敗に終わるという経験もしています。その後の映画出演では、作品の質よりもビジネス面を優先し、プレスリーのイメージを固定化させることにも繋がりました。

1958年にプレスリーが徴兵されると、パーカーは入隊中のプレスリーの宣伝活動を続け、その人気を維持しました。1960年にプレスリーが復帰すると、パーカーはプレスリーをハリウッドに送り込み、10年間で毎年3本の映画とサウンドトラックを制作するという長期契約を結びました。

停滞と再起

1960年代後半、プレスリーの映画はマンネリ化し、ブリティッシュ・インヴェイジョンの影響もあって、人気が低下しました。しかし、パーカーはプレスリーの黄金のキャデラックを利用したツアーを企画し、話題を集めました。1967年には、自身の報酬を50％に引き上げる契約をプレスリーと結びました。同年にプリシラ・ボーリューとの結婚式をラスベガスで執り行い、再びプレスリーの人気上昇を図ります。

1968年、テレビ特番『ELVIS』が放送されると、プレスリーの評価は再び高まります。パーカーは、プレスリーの公演活動を再開させ、ラスベガスでの公演は成功を収めました。1972年には、ハワイからの衛星中継「アロハ・フロム・ハワイ」を企画し、世界中にプレスリーのパフォーマンスを届けました。

晩年と死

1973年、プレスリーは処方薬依存に苦しみ始めますが、パーカーは有効な対策を講じませんでした。また、過去の音源に関する権利をRCAに売却する契約を結び、プレスリーの収入源を狭めることになりました。1977年8月、プレスリーが急死すると、パーカーは直ちにプレスリー関連商品の販売を始め、巨額の利益を上げました。しかし、プレスリーの死後、その遺産をめぐって裁判となり、パーカーのマネジメント手法が批判されることになります。

1983年、裁判所の命令により、パーカーはプレスリーの遺産管理から解任され、5年間はプレスリー関連のビジネスに関与することを禁じられました。その後は、ヒルトン・ホテルズのコンサルタントとして働いていましたが、晩年はギャンブル癖が悪化し、多額の借金を抱えていました。1997年1月21日、パーカーは心臓発作で死去しました。彼の葬儀には、多くの芸能関係者が参列しましたが、その功績と同時に、強欲な側面も記憶されることとなりました。

パーカーの私生活

パーカーは、1935年にマリー・フランシス・モットと結婚しましたが、この結婚は、彼の不法滞在を隠蔽するためのものであったという説もあります。1986年にマリーが死去した後、1990年に秘書であったロアン・ミラーと再婚しています。パーカーは、ギャンブル癖に苦しみ、多額の借金を抱えていたとされています。彼の生涯は、成功と破滅、光と影が交錯する、波乱に満ちたものでした。

遺産

パーカーは、エルヴィス・プレスリーの成功に不可欠な存在でしたが、その強欲さと強引な手法は、今もなお議論の対象となっています。彼のマネジメント手法は、芸能界におけるマネージャーの役割を大きく変えましたが、一方で、アーティストの権利や利益を軽視したという批判も根強く残っています。

映画やテレビ番組では、しばしば悪役として描かれています。彼の生涯は、欲望と野心、そして成功の代償について、私たちに問いかけ続けています。

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