トム・ベル

トム・ベル：フィラデルフィア・ソウルを彩った巨匠

トム・ベル（Thom Bell、1943年1月26日 - 2022年12月22日）は、ジャマイカ生まれのアメリカ合衆国の音楽家。ソングライター、編曲家、レコードプロデューサーとして、1970年代のフィラデルフィア・ソウル・ミュージックの隆盛に大きく貢献しました。

生い立ちと初期のキャリア

幼少期にアメリカに移住し、クラシック音楽の教育を受けました。10代の頃から音楽活動を始め、ギャンブル&ハフやダリル・ホールらと歌っていた時期もあります。その後、フィラデルフィアのCameo Recordsでセッション・プレイヤー、アレンジャーとしてキャリアをスタートさせ、その才能を発揮しました。

デルフォニックスとの出会い

1967年、地元のグループ、デルフォニックスを紹介され、サブ・レーベルMoonglowから2枚のシングルを発表しました。ベルは、流麗で豪華なアレンジをソウル・ミュージックに導入し、新たなサウンドを確立。マネージャーのスタン・ワトソンが経営するPhilly Groove labelで、「La-La (Means I Love You）」や「Didn't I (Blow Your Mind This Time)」などの大ヒットを次々と生み出しました。

ギャンブル&ハフとの協働

1971年、急成長を遂げていたギャンブル&ハフの会社、フィラデルフィア・インターナショナル・レコードに参加し、ジェリー・バトラー、アーチー・ベル&ザ・ドレルズ、オージェイズ、ダスティ・スプリングフィールドなどのアレンジを担当しました。特に、オージェイズの「裏切り者のテーマ〜Back Stabbers」は特大のヒットとなり、ベルの名声を高めました。また、ギャンブル&ハフと共に音楽出版社Mighty Three Musicを設立し、音楽ビジネスにおいても成功を収めました。

スタイリスティックスとの黄金期

1971年、スタイリスティックスをAvco Recordsで担当し、彼らの音楽性を開花させました。リンダ・クリードとのコンビで、スタイリスティックスのリードシンガー、ラッセル・トンプキンズ・ジュニアの魅力を最大限に引き出し、「Stop, Look, Listen (To Your Heart)」「You Are Everything」「Betcha by Golly, Wow」「Break Up to Make Up」「You Make Me Feel Brand New」など、数々の名曲を世に送り出しました。これらの楽曲は、プリンスやベイビーフェイスなど、後世のアーティストにも大きな影響を与えています。

スピナーズとの新たな挑戦

1972年、アトランティック・レコーズに移籍したスピナーズを担当し、新たな音楽性を開花させました。モータウン時代には不遇だったスピナーズでしたが、ベルとの出会いをきっかけに、「Mighty Love」「Ghetto Child」「I'll Be Around」「Could It Be I'm Falling in Love」「The Rubberband Man」など、数々のヒット曲を連発しました。1975年には、グラミー賞の「プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、その才能を世界に認められました。

その後の活動

1976年には、ディオンヌ・ワーウィックのアルバム『トラック・オブ・ザ・キャット』を担当。1978年には、彼女とスピナーズの「Then Came You」をシングルで発表し、チャートのトップに輝きました。その後も、ジョニー・マティス、ビリー・ポール、ロニー・ダイソン、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズ、ニューヨーク・シティなど、様々なアーティストを手がけました。1982年には、デニース・ウィリアムスの「It's Gonna Take a Miracle」がヒットし、1990年には、ジェームス・イングラムの「I Don't Have the Heart」が自身2曲目のポップチャート1位を獲得しました。

1980年代以降も、テンプテーションズ、フィリス・ハイマン、ディー・ディー・ブリッジウォーター、スタイリスティックスなどを担当し、精力的に活動を続けました。2006年には、ソングライターの殿堂入りを果たし、その功績が称えられました。

2022年12月22日、79歳で逝去。トム・ベルが残した音楽は、これからも多くの人々に愛され続けるでしょう。

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