トラニラスト

トラニラスト（Tranilast）

トラニラストは、アレルギー性疾患の治療やケロイド、肥厚性瘢痕の管理に利用される内服薬および点眼薬です。この薬剤は、身体内の肥満細胞や炎症を引き起こす細胞からの化学伝達物質の放出を抑えることで、I型アレルギー反応を軽減します。また、TGF-β1の放出を抑えることにより、線維芽細胞が生成するコラーゲン合成を調節し、ケロイドの形成を防ぐことができます。

この薬は、ナンテン配糖体の研究に基づき、キッセイ薬品工業によって開発されました。日本においては、1982年から複数のアレルギー疾患や皮膚の問題に対する治療薬として承認されています。具体的には、1982年には気管支喘息、1985年にはアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、1993年にはケロイドと肥厚性瘢痕、1995年にはアレルギー性結膜炎の治療に使用されています。商品名は「リザベン」として知られ、ジェネリック医薬品も市場に出回っています。

2014年には、医療用と同濃度の点眼薬「アルガードプレテクト」と「アルフィットEX」が一般用医薬品として発売され、2017年にはその分類が変更されました。さらに、2019年には抗炎症成分プラノプロフェンを加えた「アルガードクリニカルショット」も第2類医薬品として発売されています。

効能・効果

トラニラストは、内服薬として気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、ケロイドおよび肥厚性瘢痕の治療に用いられています。また、点眼薬としてはアレルギー性結膜炎に効果を示します。

副作用

内服薬の臨床試験では、副作用の発現率は5.3%とされ、主な症状には消化器系の不調（嘔気、腹痛、胃部不快感、食欲不振、下痢など）や肝疾患の兆候（肝機能異常、ALTやASTの上昇）、皮膚の発疹、頻尿などが報告されています。一方、点眼薬では副作用の発現率が1.5%であり、主に刺激感や眼瞼炎、瘙痒感が特徴です。

また、内服薬には以下の重大な副作用が設定されています：膀胱炎様症状、肝機能障害、黄疸、腎機能障害、白血球減少、血小板減少など。

作用機序

トラニラストは、末梢血白血球からのヒスタミン放出を濃度依存的に抑制します。さらに、抗原刺激により肺組織から放出されるロイコトリエンの種類（B4、C4、D4）の放出を抑える効果もあります。血小板活性化因子（PAF）やプロスタグランジンE2、TGF-β1の産生を抑えることでも知られています。このような作用により、好中球からの活性酸素の生成が抑えられ、血管内皮でのIL-6生成も阻害されます。さらに、線維芽細胞でのコラーゲン合成を抑制し、神経線維腫細胞の成長を妨げる効果も報告されています。

臨床試験

トラニラストに関するいくつかの小規模臨床試験で効果が確認された後、経皮的冠動脈形成術後の再狭窄を防ぐ大規模試験（PRESTO試験）が行われましたが、有効性は確認されていません。また、薬剤溶出性ステントを用いた研究や関節リウマチに関する試験が行われたものの、結果は公表されていません。さらに、翼状片切除術の術前補助療法として行われた第III相臨床試験でも、有効性は示されませんでした。

トラニラストは、多様なアレルギー疾患やケロイドに用いられ、作用と副作用が複雑な薬剤です。この薬剤の使用にあたっては、効果とリスクを十分に理解し、医療機関の指導のもとで適切に管理することが重要です。

もう一度検索