トランスクリプトーム

トランスクリプトームとトランスクリプトミクス

トランスクリプトームとは、特定の条件下における細胞内に存在する全てのmRNA（メッセンジャーRNA）、あるいは一次転写産物（transcripts）の総体のことです。これは、細胞が持つ遺伝情報が実際にどのように活用されているかを示す、動的な「写し」のようなものと捉えることができます。

ゲノムとの違い

ゲノムは、個体内の全ての細胞で原則として同一のDNA配列を持ちますが、トランスクリプトームは細胞の状態や環境に応じて大きく変化します。つまり、同じ個体でも、組織の種類や外部からの刺激によって、発現する遺伝子の種類や量が異なるため、トランスクリプトームの構成もそれぞれ異なってきます。

トランスクリプトミクス

トランスクリプトミクスは、このトランスクリプトームを研究対象とする学問分野です。遺伝子の発現パターン、すなわちどの遺伝子が、いつ、どれくらい発現しているかを網羅的に解析することで、生命現象の理解を深めることを目指します。例えば、DNAマイクロアレイのような技術を用いることで、一度に数万ものmRNAを識別し、定量することが可能です。

mRNAとタンパク質の関係

トランスクリプトームで解析されるmRNAは、遺伝情報に基づいてタンパク質を合成するための鋳型となります。しかし、mRNAの量と、最終的に合成されるタンパク質の量とは必ずしも一対一の関係にあるとは限りません。タンパク質の動態や修飾などの複雑な要因が影響するため、トランスクリプトームの解析だけでは、細胞内の全ての生命現象を理解することはできません。

プロテオームとメタボローム

タンパク質の総体はプロテオームと呼ばれ、トランスクリプトームと同様に、細胞の状態や環境に応じて変化します。また、細胞内の代謝物質の総体であるメタボロームも、生命活動を理解する上で重要な要素です。トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームの研究は、細胞内で起こる複雑な現象を解明するために、相互に補完し合う関係にあります。

トランスクリプトーム研究の意義

トランスクリプトームの研究は、生命を司る物質の流れ（メタボローム）を解明する上で重要な役割を果たします。遺伝子がどのように発現し、それが細胞の機能や状態にどのように影響を与えるかを理解することは、病気のメカニズムの解明や新たな治療法の開発に繋がります。また、トランスクリプトームは、細胞が外部からの刺激に対してどのように応答するかを理解するための鍵でもあります。細胞の応答パターンを分析することで、環境ストレスや病原体感染に対する細胞の反応を把握し、医学や農業など幅広い分野に応用することが期待されています。

関連する技術と概念

オーミクス：ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなど、生体内の様々な分子の総体を網羅的に解析する研究分野の総称
ゲノミクス：ゲノム（全遺伝情報）を対象とする研究分野
機能ゲノミクス：ゲノム上の遺伝子の機能や役割を解明する研究分野
メタボロミクス：代謝物質の総体を解析する研究分野
バイオインフォマティクス：生物学における大量のデータをコンピュータを用いて解析する学問分野
DNAマイクロアレイ：一度に多数の遺伝子の発現量を測定する技術
遺伝子発現：遺伝子の情報が機能するタンパク質などに変換される過程
相補的DNA：mRNAの配列を元に作られたDNA
SAGE法：遺伝子発現を定量的に解析する技術の一種

外部リンク

Bioinformatics Journal

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