メタボローム

メタボロームとは



メタボローム（metabolome）とは、生物実験サンプル中に存在する低分子化学物質の総体を指す言葉です。これには、糖、有機酸、アミノ酸など、数千種類にも及ぶ代謝物質が含まれます。これらの物質は、酵素などの代謝活動によって生成され、細胞の様々な機能を担っています。

メタボロミクス（metabolomics）は、分子生物学の一分野であり、これらの代謝物質を網羅的に解析することで、代謝の実態や細胞、組織、器官、個体、種といった各階層における代謝経路の多様性を研究します。バイオインフォマティクスを駆使し、複雑な代謝ネットワークを解明しようとしています。

一次代謝産物と二次代謝産物



メタボロームは、一次代謝産物と二次代謝産物に分類できます。一次代謝産物は、生物の正常な成長、発達、複製に直接関わる物質です。一方、二次代謝産物は、成長や発達に直接関与しないものの、色素や抗生物質など、生態学的に重要な役割を果たすことがあります。

メタボローム解析の重要性



近年、細胞の機能をより深く理解するため、ゲノム解析やプロテオーム解析に加えて、メタボローム解析の重要性が高まっています。ゲノムやプロテオームの変化が必ずしも表現型に反映されるとは限らないため、表現型に最も近いメタボロームを解析することで、より正確な細胞の状態を把握することができます。これは、生命のロバストネス（環境変化に対する安定性）を理解する上でも重要な視点です。

メタボロームは、タンパク質、RNA、DNAといった他の分子レベルのデータと統合的に解析することで、より包括的な生命システムの理解を可能にします。また、メタボロームは、小さな連携（回路）からなる経路ネットワークを形成しており、その解析は、代謝工学技術の開発にもつながると期待されています。

受託分析サービス



メタボローム解析を受託する企業も存在し、日本にはヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社があります。海外では、アメリカのメタボロン、EUのメタノミクスヘルス社（BASFグループ）などが知られています。これらの企業では、質量分析（MS）を用いた解析が行われています。

ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズでは、CE-MS（キャピラリー電気泳動質量分析）とLC-MS（液体クロマトグラフィー質量分析）を用いています。CE-MSでは、解糖系、ペントースリン酸経路、TCA回路、核酸代謝など、細胞内の主要な代謝経路の中間体を検出できます。LC-MSでは、脂質代謝産物を検出できます。一方、メタボロンでは、LC-MSに加えてGC-MS（ガスクロマトグラフィー質量分析）も用いて、幅広い代謝物質を解析しています。なお、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズは1検体からでも解析を受託していますが、メタボロンでは数十検体単位での依頼が必要となります。

メタボローム研究の発展



メタボローム研究は、生命科学の分野においてますます重要な役割を担うようになっています。代謝産物を網羅的に解析することで、病気の診断や治療法の開発、医薬品や有用物質の生産、食品開発、環境分析など、幅広い分野での応用が期待されています。

参考文献



  • - 冨田勝（編）、西岡孝明（編）「メタボローム研究の最前線」、丸善出版、ISBN 978-4621064320（2012年9月）

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