トリガナ航空267便墜落事故

トリガナ航空267便墜落事故：失われた54の命

2015年8月16日、インドネシアで発生したトリガナ航空267便の墜落事故は、54名全員が死亡するという痛ましい結果となりました。この事故は、ATR 42型機で発生した事故の中で最悪の死者数を記録し、トリガナ航空にとっても設立以来最悪の事故となりました。

事故の概要

事故機と航空会社

事故機はATR 42-300（PK-YRN）で、1988年に製造され、2005年からトリガナ航空で運用されていました。トリガナ航空は当時、ATR 42を5機以上、ATR 72を3機保有していました。しかし、設立から事故までの間に10件の全損事故と4件の重大事故を起こしており、安全面で多くの課題を抱えていたことが伺えます。

搭乗者

267便には乗員5名と乗客49名が搭乗していました。乗客は全員インドネシア人で、大人44人、子供3人、乳児2人でした。乗員は経験豊富なパイロット2名を含む5名で構成されていました。乗客の中には、貧困者支援のための現金を輸送する郵便局員や、独立記念式典に出席する予定だった地方公務員も含まれていました。

事故の経緯

267便はセンタニ空港を離陸後、オクシビル空港へ向かう予定でしたが、オクシビル空港への着陸進入中に墜落しました。オクシビル空港は山岳地帯に位置し、計器着陸装置が装備されていませんでした。事故当時、機体は予定された飛行経路の最終区間を飛行していましたが、14時55分ごろに交信が途絶えました。

気象条件

事故当初、悪天候が原因の可能性も指摘されましたが、実際には事故当時の天候は良好でした。しかし、オクシビル周辺の地形は非常に険しく、天候も予測が難しいため、飛行が困難な場所として知られていました。

事故調査と原因

インドネシア運輸安全委員会（NTSC）が事故調査を行い、フランス航空事故調査局（BEA）やATRの技術者も協力しました。調査の結果、以下の要因が事故の直接的な原因であると結論付けられました。

視認進入時の規則違反: パイロットは、計器着陸装置がないオクシビル空港への着陸を、目視に頼って行おうとしました。しかし、その際に定められた規則を遵守しませんでした。
対地接近警報装置（EGPWS）の作動停止: EGPWSは、航空機が地面に異常接近した場合に警報を発する装置ですが、267便では作動していませんでした。もしEGPWSが作動していれば、墜落を回避できた可能性がありました。

さらに、トリガナ航空の安全軽視の姿勢も事故の背景にあったと指摘されています。

飛行経路の逸脱

CVR（コックピットボイスレコーダー）の分析から、パイロットが予定された航路を逸脱し、直接ベースレグで空港に進入しようとしたことが判明しました。その結果、機体は山岳地帯に接近し、事故に至りました。

EGPWSの作動停止

EGPWSが作動していなかった原因として、パイロットが過去に誤作動を経験したため、意図的にサーキットブレーカーを引き抜いた可能性が指摘されています。しかし、これは安全に関わる重大な問題であり、あってはならない行為です。

最終報告書と教訓

NTSCの最終報告書では、事故原因はパイロットの判断ミスとEGPWSの警告がなかったことによるCFIT（Controlled Flight Into Terrain）であると結論付けられました。この事故は、パイロットの経験過信や安全規則の軽視が、いかに重大な結果を招くかを物語っています。

映像化

この事故は、メーデー!:航空機事故の真実と真相 第18シーズン第8話「No Warning」で映像化されています。事故の経緯や原因について、より詳しく知ることができます。

関連事故

トランスアジア航空222便着陸失敗事故
スホーイ・スーパージェット100の墜落事故
* インドネシア・エアアジア8501便墜落事故

これらの事故も、航空機の安全運航における課題を浮き彫りにしています。

トリガナ航空267便の墜落事故は、航空業界全体に安全意識の向上を促すとともに、安全対策の徹底を改めて認識させる出来事となりました。犠牲者のご冥福を心よりお祈りいたします。

もう一度検索