トリック (推理小説)

推理小説におけるトリック

推理小説におけるトリックとは、主に犯罪行為を隠蔽するために用いられる、巧妙な策略や仕掛けのことです。ミステリー作品において、トリックは物語の根幹を成す重要な要素であり、読者や視聴者を魅了する鍵となります。

推理小説におけるトリックの重要性

推理小説では、作品ごとに一つ以上のトリックが用いられるのが一般的です。これらのトリックは、作中の登場人物、特に犯人が探偵を欺くために仕掛けられることが多いですが、広義には、作者や製作者がプロットや表現手法を駆使して読者や視聴者を騙すために用いる仕掛けも含まれます。後者の場合、トリックの「フェア/アンフェア」論争が巻き起こることもあります。

代表的なトリックの種類

トリックには様々な種類があり、それぞれ独自の特徴を持っています。

物理トリック

機械的な仕掛けや物理現象を利用したトリックです。例えば、氷の弾丸を用いた射殺や、針と糸で構成された密室などが挙げられます。物理トリックは、密室トリックやアリバイトリックの基礎となることが多いです。

心理トリック

人間の心理的な盲点や錯覚を利用したトリックです。例えば、犯人がその場にいない人物の名前を呼ぶことで、周囲の人物に誤った記憶を植え付けるといった手法があります。心理トリックは、物理トリックの対概念として捉えられ、他のトリックと組み合わせて用いられることもあります。

密室トリック

犯人が出入り不可能な状況で殺人が行われるトリックです。一見すると脱出不可能な密室を作り出すことで、犯人の特定を困難にします。エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』は、密室トリックを扱った初期の代表的な作品です。

アリバイトリック

犯行時に、犯人が別の場所にいたように見せかけるトリックです。時刻表トリックのように、時間や場所を偽装することで、犯行を不可能であるかのように装います。アリバイトリックは、トラベルミステリーで頻繁に用いられる手法です。

一人二役トリック

犯人が別の人物を演じることで、自身の犯行を隠蔽するトリックです。被害者や第三者、あるいは架空の人物になりすますなど、様々なパターンがあります。古くは双子トリックが有名ですが、見破られやすいことから多用はされません。

死体損壊トリック（顔のない死体）

死体に加工を施すことで、死因や身元を隠蔽するトリックです。死体の顔を潰したり、バラバラにするなど、様々な方法があります。近年では、DNA鑑定などの捜査手法の発達により、死体損壊トリックの利用は制限されつつあります。

叙述トリック

小説の形式や読者の先入観を利用したトリックです。登場人物の性別や年齢を偽ったり、時系列を操作するなど、様々な手法があります。アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』は、叙述トリックの代表的な作品として知られています。

トリックにまつわる暗黙の了解

ミステリー作品におけるトリックには、作者と読者の間に暗黙の了解が存在します。トリックの真相を見破れるだけの情報が作中に盛り込まれていることや、トリックに現実的な破綻がないことなどが、その代表例です。これらの暗黙の了解を破った作品は、読者からの反発を受けることがあります。

トリックの分類法

トリックの分類法としては、江戸川乱歩の『類別トリック集成』や、ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』における「密室講義」が有名です。これらの分類法は、トリックの全体像を把握する上で役立ちます。

まとめ

推理小説におけるトリックは、物語を面白くする上で欠かせない要素です。様々な種類のトリックを理解することで、ミステリー作品をより深く楽しむことができるでしょう。

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