トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテ

トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテについて

トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテ（ラテン語: Tribunus militum consulari potestate）は、共和政ローマにおいて、パトリキ（貴族）とプレブス（平民）の間の政治的対立が激化していた時期に創設された特別な公職です。日本語では「執政官権限を持つ軍事担当官」や「執政武官」、「執政官格軍司令官」、「准コーンスル」などと訳されます。

概要

この職が設けられた主な目的は、プレブスが執政官（コンスル）職への就任を求める動きを和らげることにありました。当時のローマでは、執政官はパトリキが独占しており、プレブスからの不満が高まっていました。そこで、既存の執政官職を廃止するのではなく、新たにこの公職を設け、執政官の代わりとすることで、プレブスにも高位の職に就く機会を提供しようとしたのです。

従来の執政官は定員2名でしたが、トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテは年度によって定員が変動し、パトリキとプレブスの間の勢力争いに応じて増減しました。この点が、通常の執政官とは異なる特徴です。

設立の背景

紀元前445年、護民官ガイウス・カヌレイウスは、パトリキとプレブスの間の結婚を認める「カヌレイウス法」を提出しました。さらに、別の護民官が執政官のうち1人をプレブスから選出できるようにする法案を提出すると、元老院はこれに激しく反発しました。元老院は、外敵の存在を強調することでこの法案を阻止しようとしましたが、カヌレイウスはプレブスに徴兵を拒否するよう呼びかけ、抵抗しました。

この結果、執政官とカヌレイウスの間で激しい論争が繰り広げられ、執政官側の失言もあってプレブスの怒りが頂点に達しました。この状況を打開するために、執政官経験者たちが集まり協議を行い、紀元前460年の執政官ガイウス・クラウディウスが強硬的な解決を主張する一方で、ルキウス・クィンクティウス・キンキナトゥスとティトゥス・クィンクティウス・カピトリヌス・バルバトゥス兄弟がこれを制止し、最終的にこの新しい公職を設立することが決定されました。

最初の選挙では、パトリキ側が弱気な姿勢を見せていたものの、プレブスは厳粛に投票を行いました。しかし、結果として選出された3人はすべてパトリキであったという事実は、この職の設立が必ずしもプレブスの意向に沿ったものではなかったことを示唆しています。

変遷と終焉

この公職は、パトリキとプレブスの間の妥協の産物として生まれましたが、その役割は一時的なものでした。紀元前367年に「リキニウス・セクスティウス法」が成立すると、プレブスも執政官に就任することが可能となり、トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテの役目は終わりました。

この法律の成立は、共和政ローマにおける階級間の対立が、法的な枠組みの中で一定程度解消されたことを意味しています。トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテは、その歴史の中で、共和政ローマの政治構造の変化を象徴する存在であったと言えるでしょう。

まとめ

トリブヌス・ミリトゥム・コンスラリ・ポテスタテは、共和政ローマの社会構造が大きく変化する時期に、パトリキとプレブスの対立を一時的に緩和するために設けられた公職です。その設立、変遷、そして廃止の過程は、古代ローマの政治史を理解する上で重要な要素の一つです。

この職の設立背景には、プレブスの政治参加への強い要求と、それに対するパトリキの抵抗があり、その結果として、両者の妥協点としてこの特別な職が生まれたことがわかります。最終的に、リキニウス・セクスティウス法の成立によってその役割を終えましたが、この職の存在は、共和政ローマの歴史における重要な転換期を示しています。

脚注

リウィウス著『ローマ建国以来の歴史』には、この職に関する記述が詳細に記されています。
ブロートン著『ローマ共和政の官吏』は、ローマの官職制度に関する重要な研究書であり、この職についても詳細な情報を得ることができます。

参考文献

ティトゥス・リウィウス 著、岩谷智 訳『ローマ建国以来の歴史 2』京都大学学術出版会、2016年。
T. R. S. Broughton (1951, 1986). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association

もう一度検索