トリブバン・ビール・ビクラム・シャハ

トリブバン王

トリブバン・ビール・ビクラム・シャハ・デーブ（Tribhuvan Bir Bikram Shah Dev、1906年6月30日 - 1955年3月13日）は、ネパール王国のゴルカ朝第8代君主であり、この時代から「国王」の称号が用いられるようになりました。ネパール史における重要な転換点、特に長期間続いたラナ家による支配を終焉させ、王政復古を実現した人物として知られています。

幼少期と即位

トリブバン王は、1906年6月30日に当時の国王であったプリトビ・ビール・ビクラム・シャハの息子として、首都カトマンズに生を受けました。わずか5歳であった1911年12月11日、父王の崩御に伴い幼くして王位を継承します。

しかし、この時代のネパール王国では、ラナ家が世襲の宰相として絶大な権力を握っており、国王は名目上の元首に過ぎませんでした。幼くして即位したトリブバン王もまた、ラナ家の支配下で政治から隔離され、その関心を国の統治ではなく、酒宴や女性へと向けさせるような「愚王教育」を受けさせられたと伝えられています。

政治的激動と亡命

20世紀中盤、ネパール国内ではラナ家による専制政治に対する不満が高まり、新たな政治勢力であるネパール会議派などが台頭していました。このような緊張が高まる中、1950年に国内情勢が緊迫すると、トリブバン王は子供や孫たちと共に、隣国インドへの亡命を決行します。この行動は、ラナ家に対抗する勢力に希望を与えるものとなりました。

国王の不在という事態に対し、ラナ家の宰相モハン・シャムシェル・ジャンガ・バハドゥル・ラナは、トリブバン王の孫にあたるギャネンドラ王子を新たな国王として擁立し、王位の正当性を主張しようとしました。しかし、このラナ家の一方的な措置は、国際社会や周辺国から広く認められることはありませんでした。

王政復古と復位

インドに滞在中、トリブバン王はネパールの民主化勢力と連携を深めます。国際的な支援も背景となり、ラナ家は譲歩を迫られることになります。そして1951年2月、トリブバン王はカトマンズへと帰還し、正当な国王として復位を果たしました。

この復位は、104年間にわたってネパールの実権を握り続けたラナ家の世襲宰相政治の終焉を意味し、ネパールの歴史において「王政復古」と呼ばれる一大転換点となりました。これにより、国王が再び国の中心的な役割を担うこととなり、近代ネパールが歩み始める契機となりました。

晩年と崩御

王政復古後のトリブバン王は、新しい時代のネパール建設に意欲を示しましたが、その治世は長く続きませんでした。晩年は病に伏し、治療のためにスイスへと渡ります。そして1955年3月13日、療養中のチューリヒで崩御しました。

トリブバン王の死後、長男のマヘンドラが第9代国王として王位を継承しました。後の第10代国王ビレンドラ、そして第12代国王ギャネンドラは、トリブバン王の孫にあたります。

後世への影響

トリブバン王は、ネパールの歴史において王政復古を実現し、近代国家への扉を開いた国王として記憶されています。その功績を称え、現在でもネパールには彼の名を冠した多くの施設が存在します。例えば、ネパールの主要国際空港であるトリブバン国際空港や、ネパール最古にして最大の国立大学であるトリブバン大学などが挙げられます。また、ラプティ県の町トリブバンナガル（現在のゴラヒ）も、彼にちなんで命名された地名です。さらに、1945年から1955年にかけて発行されていたネパール・ルピーの紙幣には、彼の肖像が描かれていました。

トリブバン王は、専制政治からの解放と民主化への道筋をつけた指導者として、ネパールの国民に敬意をもって称えられています。

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