ゴルカ朝

ゴルカ朝、またはシャハ朝（シャー朝）は、1559年に現在のネパール西部に位置するゴルカにおいて成立した王朝です。約450年後の2008年5月28日に終焉を迎えるまで、ゴルカ王国そしてネパール王国を統治し、ネパールの歴史において最後の王家となりました。王家はチェトリというカーストに属し、歴代の王はヒンドゥー教徒であり、特にヴィシュヌ神の化身として崇敬されてきました。

ゴルカ朝が興る以前、15世紀後半のネパール盆地は、マッラ朝のもとでバクタプル、カトマンズ、パタンの三つの独立王国が鼎立する「マッラ朝三王国時代」と呼ばれる分立状態にありました。このような多島海のような小国家が乱立する時代背景の中、16世紀にヤショー・ブラフマ・シャハがカスキ王国をその支配下に置いたことに端を発します。そして1559年、ヤショー・ブラフマの子ドラヴィヤ・シャハがゴルカの地に独立した王国を確立しました。当時のゴルカは、周辺に多数存在した小国家の中でも、特に規模の小さな勢力でした。

ゴルカ王国が歴史の表舞台に躍り出るのは、1743年に第10代ゴルカ王となったプリトビ・ナラヤン・シャハの時代です。彼はネパールの統一を目指し、軍事行動を開始しました。粘り強い攻城戦を展開し、1767年にはキルティプルを、そして1768年にはカトマンズを攻略するなど、ネパール盆地の主要都市を支配していたマッラ朝の各勢力を次々と破りました。同年9月、プリトビ・ナラヤン・シャハはネパール王として即位し、これによりネパール王国が成立、およそ180年にわたる統一絶対王政期が始まります。

しかし、統一国家として歩み始めたネパール王国は、19世紀に入ると新たな試練に直面します。第5代ネパール王ギルバン・ユッダ・ビクラム・シャハの治世であった1814年、ネパールとイギリス東インド会社の間でグルカ戦争が勃発しました。この戦いに敗れたネパールは、1816年に結ばれた講和条約によって、国土の約3分の1に及ぶ広大な領土を失うこととなりました。さらに、1846年にはラジェンドラ・ビクラム・シャハ王の時代に、宰相のラナ家が宮廷クーデターによって実権を掌握し、これ以降、ゴルカ朝の王は名目上の存在となり、ラナ家による専制的な支配が約100年にわたって続くことになります。

ゴルカ朝が再びその統治権を取り戻したのは、第二次世界大戦後の1951年、トリブバン国王のときです。彼は一時亡命を経て帰国した後、新たな国家体制として立憲君主制を導入しました。続くマヘンドラ国王は、1959年に憲法を公布し、ネパール史上初の総選挙を実施。選挙でネパール会議派が勝利し、議会制民主主義が一時的に実現しましたが、改革を進めようとする内閣と国王の間に対立が生じ、1960年にマヘンドラ国王は憲法を停止し、議会と内閣を解散、主要な政治家を逮捕するというクーデターを敢行しました。1962年には政党を禁止し、国王に有利な間接民主制であるパンチャーヤト制を導入しました。

1972年にマヘンドラ国王が崩御した後、長男のビレンドラが王位を継承しました。1990年には、国民による大規模な民主化運動（ジャナ・アンドラン）の高まりを受けて、ビレンドラ国王は複数政党制に基づく民主的な憲法を制定し、直接選挙による議会と責任内閣制を復活させました。この決定により、ビレンドラ国王は開明的な君主として国民からの厚い信頼を得ることになりました。

しかし、2001年6月1日、ネパール王宮で悲劇的な王族殺害事件が発生し、ビレンドラ国王をはじめとする多くの王族が犠牲となりました。事件後、昏睡状態にあった皇太子ディペンドラが形式的に即位するも程なく崩御し、その叔父にあたるギャネンドラが再び王位に就くこととなりました。

ギャネンドラ国王は、2005年2月に議会を解散して自ら政権を掌握する親政を開始しましたが、国民からの反発が強まり、2006年4月の民主化運動（ロクタントラ・アンドラン）によって親政は終焉を迎えました。これにより、ネパールの君主制の今後、すなわちゴルカ朝の運命は、国民によって選ばれる制憲議会に委ねられることが決定しました。2007年12月24日には、制憲議会が開会されるとともに王制が廃止される方針が発表され、そして2008年5月28日、制憲議会の第一回会議においてネパールの連邦共和制への移行が正式に宣言され、ここに約450年にわたるゴルカ朝の歴史は完全に幕を閉じました。

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