トルキスタン総督府

トルキスタン総督府：ロシア帝国と中央アジアの接点

1867年から1917年まで、中央アジアの西トルキスタン地域に存在したロシア帝国の軍政機関、トルキスタン総督府。タシケントを首都とし、ロシア帝国による中央アジア支配の中枢として機能しました。その歴史、政治体制、そして住民との関係を探ることで、19世紀後半から20世紀初頭にかけての中央アジア情勢を理解する上で重要な手がかりが得られます。

ロシア帝国の進出と総督府の設立

19世紀、ロシア帝国は中央アジアへの進出を積極的に推進しました。1864年から1866年にかけての軍事行動を経て、コーカンド・ハン国領の一部であるタシケントやシルダリヤ川流域を征服、さらにカザフ人の部族連合体である大ジュズを服属させました。これらの征服地を基盤に、1867年7月11日、タシケントにトルキスタン総督府が設立されました。

当初はシルダリヤ州とセミレチエ州の2州を管轄下に置きましたが、その後も領土拡大は続きました。1868年にはザラフシャン管区（後にサマルカンド州に再編）、1876年にはコーカンド・ハン国征服後の旧ハン国領をフェルガナ州として編入しました。1880年にはトルクメン人を制圧し、さらに1897年にはカフカース総督府からザカスピ州を編入するなど、その勢力範囲は拡大の一途を辿りました。1886年からは総督府領は「トルキスタン地方」と呼ばれるようになりました。

軍事力と政治的権限

総督府は陸軍省の直轄下にあり、総督を始めとする各州知事は陸軍将校から任命されました。これは、中央アジアが対英戦略上重要な地域であったことを反映しています。アフガニスタンやチベットを挟んで英領インドと対峙するこの地域において、総督は政治、国境、通商問題に関する無制限の権限を持ち、必要に応じて他国との交渉や協定締結の権限も有していました。

住民統治と不干渉政策

一方、内政面では、人口の大部分を占めるムスリム住民に対しては、一種の不干渉政策がとられました。治安維持を最優先課題としつつも、ムスリム社会の基本構造には介入せず、ムスリム住民の政治参加は認められていませんでした。これは、ロシア帝国の支配下における民族・宗教間の複雑な関係を示す一例と言えるでしょう。

総督府は公式の官報として『トルキスタン地方新聞』を発行し、情報発信と統治の手段として利用しました。この新聞はロシア語とウズベク語で発行され、多様な住民への情報伝達に役立ったと考えられます。

崩壊とその後

1917年のロシア革命によって、トルキスタン総督府は崩壊しました。その管轄地域はトルキスタン自治ソビエト社会主義共和国へと再編され、ロシア帝国による支配は終焉を迎えます。総督府の設立から廃止までの約50年間は、中央アジアの歴史において重要な転換期であり、ロシア帝国と中央アジアの関係、そして地域住民の生活に大きな影響を与えました。

歴代総督

トルキスタン総督府には、多くの陸軍将校が総督として任命されました。その中には、中央アジア征服に貢献した人物や、地域の開発・統治に尽力した人物も含まれています。彼らの政策や功績は、総督府の歴史を理解する上で欠かせない要素です。主な歴代総督を以下に列挙します。

コンスタンティン・フォン・カウフマン
ゲラシム・コルパコフスキー
ミハイル・チェルニャエフ
ニコライ・ローゼンバッハ
アレクサンドル・ヴレフスキー
セルゲイ・ドゥホフスキー
ニコライ・イワノフ
ニコライ・テヴャシェフ
デアン・スボティッチ
マツィエフスキー
ニコライ・グロデコフ
パーヴェル・ミシチェンコ
アレクサンドル・サムソノフ
フョードル・マルツォン
* アレクセイ・クロパトキン

これらの総督たちは、それぞれの時代背景の中で、中央アジアの統治に携わりました。彼らの政策や行動は、現代の中央アジア社会にも影響を与えていると考えられます。

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