トレイシー・ハリス・パターソン

トレイシー・ハリス・パターソン（Tracy Harris Patterson）は、1964年 12月26日にアメリカ合衆国アラバマ州グラディで生まれたプロボクサーです。特に知られているのは、彼が伝説的な元世界ヘビー級王者フロイド・パターソンの養子であるという点です。自身のキャリアにおいても輝かしい実績を残し、世界2階級制覇を達成しました。

アマチュアボクシングでは、ゴールデングローブのバンタム級で優勝という実績を持っています。この成功を足がかりに、1985年6月19日にプロの世界へと足を踏み入れました。デビュー戦は4ラウンド判定勝ちを収め、白星でスタートを切りました。

プロキャリアの初期には、順風満帆とはいきませんでした。1987年10月7日には、ネバダ州ラスベガスで行われた試合で世界ランカーのジェフ・フランクリンに10ラウンド判定負けを喫し、プロ初黒星となりました。また、1989年5月14日には、スティーブ・クルスとの対戦で、試合を優位に進めているかのように見えながらも、8ラウンドにダウンを奪われ、最終的に10ラウンド1-2の僅差の判定で敗れています。

しかし、彼は挫けませんでした。1990年2月8日、NABF北米スーパーバンタム級王座決定戦でジョージ・ガルシアと対戦し、8回1分55秒での鮮やかなKO勝利を収め、自身初の地域タイトルを獲得しました。同年4月19日には、元WBO世界スーパーバンタム級王者のケニー・ミッチェルを相手に初防衛戦を行い、8ラウンドTKOで勝利し、王座を堅守しました。

そして1992年6月23日、ついに世界初挑戦の機会が訪れます。WBC世界スーパーバンタム級王者ティリー・ヤコブに挑んだパターソンは、初回と2回に立て続けにダウンを奪う圧倒的なパフォーマンスを見せ、2回わずか50秒でレフェリーストップによるTKO勝利を収め、世界王座を獲得しました。この勝利は、フロイド・パターソンの養子という注目度も相まって、大きな話題となりました。

WBC王者となったパターソンは、その王座を4度にわたって防衛しました。1992年12月5日にはフランスでダニエル・ザラゴザと対戦し、12ラウンド戦って三者三様の1-1の引き分けとなり、辛くも初防衛に成功します。続く1993年3月13日には、ニューヨークでヘスス・ベナビデスと対戦し、12ラウンド3-0の明確な判定で2度目の防衛を果たしました。同年9月25日には、最初の対戦で引き分けた因縁の相手、ダニエル・ザラゴザと再戦。この試合では7回2分7秒TKO勝ちを収め、3度目の防衛に成功し、前回のリベンジを果たしました。さらに1994年4月9日には、リチャード・デュランを12ラウンド3-0の判定で破り、4度目の防衛を飾りました。

しかし、5度目の防衛戦となった1994年8月26日、ニュージャージー州アトランティックシティでのエクトール・サンチェス戦で、パターソンは12ラウンド1-2の僅差の判定で敗れ、王座から陥落しました。WBCスーパーバンタム級での安定政権はここで幕を下ろすことになります。

王座を失った後、パターソンは階級を一つ上げてスーパーフェザー級へ転向します。そして1995年7月9日、IBF世界スーパーフェザー級王者エディ・ホプソンに挑戦。この試合でパターソンは驚異的な攻撃力を見せ、わずか2ラウンドで4度のダウンを奪い、2回1分37秒TKO勝利を収めました。これにより、彼はスーパーバンタム級からの飛び級という形で、見事に世界2階級制覇を達成しました。

新たな階級での挑戦は続きましたが、IBF王座は長くは保持できませんでした。1995年12月15日、マディソン・スクエア・ガーデンでの初防衛戦で、強敵アルツロ・ガッティと対戦し、12ラウンド0-3の判定負けを喫し、王座から陥落しました。1997年2月22日には、ガッティとのリマッチに臨みましたが、再び12ラウンド0-3の判定で敗れ、王座への返り咲きは叶いませんでした。

キャリアの終盤には、1998年7月11日にIBA世界スーパーフェザー級王者グレゴリオ・バルガスに挑戦するも、キャリア初のKO負けとなる6回TKOで敗退。その後もジュニア・ジョーンズや後のWBO王者スコット・ハリソンといった選手と対戦しましたが、勝利を収めることはできませんでした。2001年9月19日の試合で4回負傷引き分けとなったのを最後に、現役を引退しました。

トレイシー・ハリス・パターソンは、そのキャリアにおいてNABF北米スーパーバンタム級王座、WBC世界スーパーバンタム級王座、IBF世界スーパーフェザー級王座を獲得し、世界2階級制覇という偉業を成し遂げたボクサーです。特にWBCスーパーバンタム級では強豪を退け、長期にわたりタイトルを保持しました。養父フロイド・パターソンの名声とは別に、自身の力でボクシング界に確固たる足跡を残しました。

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