トレビノ小唄

1973年、日本の歌謡界で不動の地位を築いていた三橋美智也が発表したシングル「トレビノ小唄」は、そのユニークな題材と軽妙な楽曲スタイルにより、彼のキャリアにおいて異彩を放つ一曲として位置づけられます。この楽曲は、前年にリリースされ好評を博した「サイパン小唄」に続く、いわゆる「小唄シリーズ」の第2弾として企画されました。

「トレビノ小唄」の最大の特色は、当時の世界的なゴルフ界のスーパースターであり、「笑うメキシカン」の愛称で親しまれたプロゴルファー、リー・トレビノを主題としている点にあります。実は、この楽曲の着想源は、当時既に存在していた別の歌にあります。それは、アニメソングや特撮ソングの歌唱で名を馳せた子門真人が歌った「トレビノ・ソング」です。「トレビノ小唄」は、「トレビノ・ソング」のメロディやテーマを巧みに取り入れつつ、三橋美智也の得意とする「小唄」へと大胆にアレンジされたカバー（または派生）作品と言えます。

楽曲の制作陣は、作詞にいしいたもつ、作曲・編曲に玉木宏樹を迎えました。玉木宏樹の手腕により、原曲の持つ明るい雰囲気を保ちながらも、三橋美智也の独特な節回しや歌唱スタイルに合うよう、和風のテイストが加味された小唄調に仕立てられています。さらに、サカモト児童合唱団による合唱が加わることで、楽曲全体に親しみやすさと賑やかさが生まれています。

歌詞の内容も非常に特徴的です。作詞家のいしいたもつは、主人公であるリー・トレビノへの敬意を表しつつ、当時の世界のゴルフ界を牽引していた著名なプロゴルファーたちの名前を歌詞の中に次々と織り込みました。具体的には、全英オープンやマスターズで活躍したダグ・サンダース、全米オープンを含むメジャー大会で勝利を収めたアル・ガイバーガー、そして日本ゴルフ界の英雄である尾崎将司（ジャンボ尾崎）といった名前が登場します。さらに、プエルトリコ出身のエンターテイナー、チチ・ロドリゲス、驚異的な長寿を誇ったサム・スニード、そして「帝王」ジャック・ニクラスといった、ゴルフ史に燦然と輝くレジェンドたちの名も連ねられており、当時のゴルフファンであれば誰もが知るスター選手たちが、歌詞の中で躍動しているかのようです。1970年代初頭は、日本でも空前のゴルフブームが到来しつつあった時期であり、このようなタイムリーかつ話題性の高いテーマが取り上げられたことは、楽曲のヒットを後押しする要因の一つとなったと考えられます。

シングルのカップリング曲（B面）には、「ナインホールラグ」が収録されています。こちらも作詞はいしいたもつ、作曲は玉木宏樹という「トレビノ小唄」と同じ布陣ですが、編曲ではなく三味線演奏として豊文がクレジットされている点が異なります。曲名に「ナインホール」とあることからも分かるように、こちらもゴルフに関連した楽曲であり、三味線がフィーチャーされたラグタイム風のインストゥルメンタル（あるいは歌唱が入るか不明だが、タイトルと三味線クレジットからインストゥルメンタルである可能性が高い）であったと推測されます。「小唄シリーズ」という名称にふさわしく、メイン曲だけでなくカップリング曲にも和楽器が効果的に取り入れられている点が、このシリーズの音楽的特徴と言えるでしょう。

1973年は、三橋美智也が歌手生活20周年を迎えた記念すべき年であり、円熟期に差し掛かっていた彼のキャリアにおける新たな試みを示す楽曲として「トレビノ小唄」は位置づけられます。単に流行のスポーツ選手を歌った曲としてだけでなく、当時の人気プロゴルファーたちを歌詞に登場させ、それを日本の伝統的な「小唄」のリズムに乗せて表現するというその企画性は、演歌・歌謡曲というジャンルが持つ多様性と柔軟性を示しています。三橋美智也の卓越した歌唱力と、当時の世相を捉えたユニークなテーマ設定が見事に融合した「トレビノ小唄」は、日本の歌謡史における興味深い一頁として、今なお記憶されるべき楽曲と言えるでしょう。

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