トロブリアンド諸島

トロブリアンド諸島（キリウィナ諸島）

パプアニューギニアの東部沖合に広がるトロブリアンド諸島は、美しい環礁が連なる島嶼群です。現在ではキリウィナ諸島が正式名称として用いられています。ミルン湾州に属し、主要な島として最大のキリウィナ島のほか、カイレウナ島、ヴァクタ島、キタヴァ島などがあります。およそ2万人の先住民がこれらの島々に居住しており、その大部分はキリウィナ島に暮らしています。

独自の文化と社会構造

トロブリアンド諸島の住民は主に焼畑農業を営んでおり、タロイモやヤムイモといった根菜類を栽培しています。彼らは伝統的な集落で共同生活を送り、社会構造は母権・母系制を基盤としています。

この諸島を世界的に有名にしているのが、「クラ」と呼ばれる独特な大規模儀礼的交易です。クラでは、参加者はカヌーを操って島々を巡り、特定の種類の貝でできた装飾品を交換し合います。具体的には、赤い貝のネックレスは時計回りに、白い貝の腕輪は反時計回りに島々を渡りながら交換されていきます。これは生活に必要な物資を取引する通常の物々交換とは異なり、儀礼的な側面が非常に強く、交換自体とその手続き、そして交換を通じて構築される個人間の関係性が重視されます。クラは単なる経済活動ではなく、社会的な地位や名声を示す重要な儀式であり、島々の間でネットワークを維持する役割も果たしています。

死生観にも独特の信念があります。伝統的な信仰では、死を迎えた魂は近隣の島で新たな生を過ごした後、再び胎児となってこの世に戻ってくると考えられていました。

また、近代において部族間の戦闘が禁止された後、その代替行為として儀式化されたクリケットが非常に盛んになりました。このクリケットは、通常のスポーツとしてのそれとは異なり、しばしば対立や競争の感情を表現する場となり、かつての戦いのような熱を帯びることがあります。

使用されている言語はキリヴィラ語で、これはオーストロネシア語族の西オセアニア語群に分類されます。

歴史と外部世界との関わり

ヨーロッパ人がトロブリアンド諸島を初めて訪れたのは1793年のこと。フランスのエスペランス号が来航し、乗員の一人であったドニ・ド・トロブリアンにちなんでこの名が付けられました。その後、20世紀初頭にはイギリスの植民地支配下に置かれ、キリウィナ島のロスイアに植民地政庁が設置されました。

第一次世界大戦中、ポーランド出身の著名な文化人類学者ブロニスワフ・マリノフスキがこの諸島に長期滞在しました。彼は現地での生活に深く入り込む「参加観察」という革新的な手法を用い、クラ交易の詳細、親族構造、魔術、性慣習など、トロブリアンド社会の多岐にわたる側面を克明に記録しました。彼の調査成果は『西太平洋の遠洋航海者』をはじめとする数々の著作にまとめられ、これらは現代文化人類学の古典として多大な影響を与えました。マリノフスキの研究によって、トロブリアンド諸島のユニークな文化は世界中に知られることとなりました。

第二次世界大戦中は、周辺地域が激しい戦場となりました。1943年には連合軍のカートホイール作戦の一環として、キリウィナ島に連合軍部隊が進駐しています。

戦後、特に1970年代以降は、植民地主義からの脱却と伝統文化の復興を目指す動きが活発化しました。現代では観光地としても開発が進められていますが、古くからの慣習や社会構造は比較的よく保たれており、独自の文化が息づいています。

トロブリアンド諸島の文化研究において、ブロニスワフ・マリノフスキの著作、特に『西太平洋の遠洋航海者』は不可欠な文献として現在も参照されています。

もう一度検索