トンスラ

トンスラ（tōnsūra）は、髪の毛を剃る行為を指し、剃髪とも訳されます。この習慣は、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教など、様々な宗教に見られます。日本語では、特にカトリック教会の修道士の髪型を指すことが多いです。

キリスト教におけるトンスラ

キリスト教、特にカトリック教会では、修道士の髪型として「トンスラ」が知られています。この髪型は、頭頂部と側頭部から後頭部にかけてを剃り、鉢巻のように頭髪を残す特徴的なものです。この髪型の起源には諸説ありますが、13世紀のイタリア大司教ヤコブス・デ・ウォラギネは、『黄金伝説』の中で、ペテロがアンティオケイアで説教中に頭頂部の髪を切り落とされた故事に由来するという説を紹介しています。

また、磔刑に処されたイエス・キリストが頭にかぶせられたいばらの冠を模しているという説もあります。中世初期には、長髪が男性の象徴とされていたため、トンスラは俗世との決別を示す聖職者のアイデンティティとして普及しました。6世紀の聖職者ベーダ・ヴェネラビリスは、『教会史』の中で、トンスラは俗人身分から聖職者身分への移行の象徴であり、聖俗を明確に分けるしるしであると述べています。

当初は自発的に行われていたトンスラですが、13世紀以降には全ての聖職者に強制されるようになりました。しかし、第2バチカン公会議頃からこの習慣は廃れ始め、1972年には公式に廃止されました。

修道士のトンスラとは別に、かつて司祭になる際には、叙階の儀式として後ろ髪を2～3cm程度丸く刈り取ることも行われていました。

日本では、フランシスコ・ザビエルを描いたとされる『聖フランシスコ・ザヴィエル像』に特徴的な髪型が見られますが、これはザビエル没後約80年後に日本人絵師が想像で描いたものとされています。ただし、構図がヒエロニムス・ヴィーリクスの銅版画『聖フランシスコ・ザビエル』に酷似していることから、これを参考にしたのではないかという考察もあります。この絵に描かれたザビエルの髪型は、本来のトンスラとは異なり、頭頂部のみを剃髪している点が特徴です。また、ザビエルが所属していたイエズス会にはトンスラの習慣がなかったため、彼の髪型はトンスラではないという説も存在します。

正教会の修道士には、頭髪を剃る習慣はなく、むしろ髪を伸ばす習慣があります。これはカトリックのトンスラとは対照的です。

トンスラの意義と歴史

トンスラは、単なる髪型の問題ではなく、宗教的な意味合いを強く持っています。俗世との決別、聖職者としての身分の象徴、神への献身など、様々な意味が込められています。時代と共にその意味合いや形式は変化してきましたが、宗教的な儀式における重要な要素の一つであったことは確かです。

関連事項

スキンヘッド: 頭髪を完全に剃り上げる髪型で、トンスラとは異なりますが、剃髪という点で関連性があります。
ウィンプル: 女性が髪を隠すために使用する布で、新約聖書コリントの信徒への手紙一で言及があります。女性が髪を剃ることを嫌がった結果、髪を隠すために用いられたとされています。
キリストの[[磔刑]]: トンスラの起源説の一つとして、磔刑に処されたイエス・キリストが被ったいばらの冠を模しているという説があります。
理髪外科医: かつては理髪師が外科手術を行うこともあり、髪を剃る行為と医療行為が結びついていました。

このように、トンスラは宗教的、歴史的な背景を持つ興味深い習慣です。

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