トンレサップ

トンレサップ湖

トンレサップ（クメール語: បឹងទន្លេសាប、Tonlé Sap）は、カンボジアに所在する湖で、東南アジア最大の面積を誇ります。この湖の名前は、クメール語で「巨大な淡水湖（sap）」と「川（tonlé）」を意味し、その地理的な特徴を反映しています。

地理的特徴

トンレサップ湖は、インド亜大陸とアジア大陸の衝突によって生じた地質的な緊張から形成された堰き止め湖です。湖の形状はヒョウタンのようで、独特の景観を形成しています。

面積と水深の変動

トンレサップ湖は、乾季には水がほとんどなく、深さは約1メートル、面積は2500平方キロメートル（琵琶湖の約4倍）にとどまります。この時期、湖の南側にあるプノンペンと北岸のシェムリアップを結ぶ定期船は、浅瀬に乗り上げることが多くなります。しかし、5月から11月の雨季になると、メコン川から流れ込むトンレサップ川の逆流により、湖の面積は約6倍に拡大し、1万6000平方キロメートルに達します。水深も9メートルにまで増し、その変動は湖の生態系に大きな影響を与えます。

生態系の豊かさ

湖の面積が増加することで、湖水は陸上植物由来の有機物がたっぷりと供給されます。この有機物は、多くのプランクトンを育て、さらにそれが魚の食料となります。トンレサップ湖には、体重100キロを超えるメコンオオナマズ（Pangasius gigas）やパーカーホ、タイガーバルブ、Cirrhinus microlepisなど、600種以上の淡水魚が生息しており、豊富な漁業資源が存在します。

雨季が終わると、魚たちは繁殖を終え、暖かい水を求めて川下へ移動します。この湖で獲れる魚は、カンボジア人の食生活において重要なたんぱく源となっており、国民の60%のたんぱく質を占めています。また、ワニ（シャムワニ）やカメ類も生息しており、湖の多様な生態系に寄与しています。

水生植物と環境保護

湖では水生植物も豊富で、特にホテイアオイの急激な繁殖が問題視されています。そのため、日本企業がその利用法を検討し、バイオマスエタノールとしての活用が模索されています。湖とその周辺の森林や湿地には、カニクイザルやカワウソ、オオハゲコウなど様々な動物が生息しており、2000年にはユネスコの生物圏保護区に登録されました。また、湖の北部にはボン・チマル、北西部にはプレック・トアルといったラムサール条約登録地も存在します。

農業と地域住民の生活

雨季が終わって水が引くと、湖底に残された栄養分豊かな堆積物が圃場を豊かにし、浮き稲などを栽培する重要な農地が生まれます。さらに、トンレサップ川の逆流は、メコン川下流（メコンデルタ）での洪水を防ぐ役割も果たしています。

湖面に浮かぶボートハウスの村、特にチョンクニアでは、観光客がボートで家々や店舗、学校を訪れることができます。ここには、湖水に依存して生活する約38,000人の住民が暮らしており、その中には多くのベトナム人コミュニティも含まれています。

トンレサップ湖は、自然環境と地域住民の生活が密接に結びついた特異な地域であり、その独自の生態系と文化は、今後も保護されるべき重要な資源です。

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