トーマス・セイヴァリ

トーマス・セイヴァリとその功績

トーマス・セイヴァリ（英: Thomas Savery、1650年頃 - 1715年）は、17世紀後半から18世紀初頭にかけて活動したイギリスの発明家、技術者、そして軍人です。彼は特に、商業用途で初めて成功を収めたとされる蒸気機関、「火の機関（Fire Engine）」の開発者として歴史に名を刻んでいます。

生涯の概略

セイヴァリは、イングランド南西部のデヴォン州モッドベリー近郊にあるマナー・ハウスで生を受けました。軍事技術者としての専門教育を受け、キャリアを順調に進め、後に「キャプテン・セイヴァリ」と呼ばれるようになります。この「キャプテン」という呼称については、海軍大佐説や、コーンウォールの鉱夫が技術者をそう呼んでいたとする説などがあり、明確ではありません。当時の軍隊において技術職はさほど重要視されていませんでしたが、彼は機械への強い関心から物理学の知識を深め、自由な時間を利用して様々な機械に関する実験に没頭しました。

多岐にわたる発明活動

セイヴァリは蒸気機関以外にも複数の発明を手がけています。1696年には、板ガラスや大理石などを研磨する機械の特許を取得しました。同時期には、船舶の推進方法に関する論文『Navigation Improved』を発表。この中には、キャプスタンで操作する外輪（今日の外輪船の原型）が含まれており、イギリス海軍への採用を提案しましたが、海軍調査官のエドムンド・ダンマーによる否定的な意見を受け、残念ながら不採用となりました。彼はこの対応に非常に憤慨したと伝えられています。その後、小型の装置をボートに取り付けてテムズ川で実演を行い、観衆からは賞賛の声があがったものの、多額の費用を投じたにもかかわらず、結局この外輪船の開発からは手を引くこととなりました。

「火の機関」の発明とその詳細

セイヴァリの最も重要な業績は、「火の機関」と彼自身が名付けた蒸気機関です。鉱山地帯で育った彼は、当時の鉱山における深刻な排水問題と、それによって鉱夫たちが直面する危険や困難を深く認識していました。この問題を解決するために蒸気力を活用することを考案し、数多くの実験を重ねました。

綿密な設計に基づき、彼は蒸気機関式の揚水ポンプの模型を完成させました。1698年にはハンプトン・コート宮殿で国王ウィリアム3世の前で実演を行い、その性能を示すことに成功しました。その成果が認められ、同年7月25日には特許が付与されます。翌年には王立協会でも実演し、好評を博しました。1702年には、機関の構造や操作方法を詳細に解説した書籍『鉱夫の友；または火で揚水する機械』を出版し、国王にも献本しました。この書の中で、彼は機関の多様な用途を列挙しています。これには、あらゆる種類の水車を動かすための揚水、宮殿や邸宅への給水・防火、都市への給水、沼地や湿地の排水、船舶、そしてもちろん、鉱山の排水や水没防止が含まれていました。

セイヴァリの特許は「火力によって揚水する装置」という非常に広範な内容であったため、その後のイギリスにおける蒸気機関開発全体に大きな影響を与えました。当初14年だった特許期間は、1699年に21年延長され、1733年まで有効となりました。これは、後にトマス・ニューコメンがより進んだ蒸気機関を開発した際も、セイヴァリの特許を使用せざるを得なかった理由となります。

セイヴァリの機関は、レシーバーと呼ばれる容器に蒸気を直接送り込み、その圧力で容器内の水を押し出し、次にレシーバーを外部から冷水で冷却することで蒸気を凝縮させて真空状態を作り出し、その吸引力で低い場所から新たな水を吸い上げる、という動作を繰り返すことで揚水を行う仕組みでした。しかし、この方式は原理的にも技術的にも未熟であり、蒸気による加熱と冷却を繰り返す過程で熱の損失が大きく、効率が低いという問題がありました。さらに、当時の技術水準では高圧蒸気に耐えることが難しく、機関の破裂事故が頻繁に発生する危険性を常に抱えていました。また、機関全体を揚水する水位面より高い位置に設置する必要があり、鉱山の深い坑道では設置が困難であり、故障や事故の際には水没してしまい、修理や復旧が極めて難しいという重大な欠点がありました。

建造と改良の試み

セイヴァリ機関は、コーンウォール州の錫鉱山やスタッフォード州の炭鉱、ロンドンへの給水目的などで数台が建造されました。当初有効に機能した例もありましたが、坑道が深くなるにつれて高圧が必要となり、破裂事故が頻発したため、次第にニューコメン機関に取って代わられました。結果として、セイヴァリ機関の用途は、噴水への給水や邸宅への給水、または水車を動かすための揚水といった小規模なものに限定されることとなりました。

セイヴァリ機関の欠点を克服するための改良は、ベンジャミン・ブラッドリーやドゥニー・パパン、そして特にジョン・デサグリエといった後続の研究者たちによって試みられました。ジョン・デサグリエは1718年以降、セイヴァリ方式の改良型機関を開発しました。彼は、レシーバー内で蒸気が冷水と混ざる際に大量に凝縮され、無駄が生じていることを突き止めました。デサグリエの改良点には、レシーバーを一つに減らすこと、蒸気を凝縮させるための冷水をレシーバー外部からではなく、内部の蒸気中に直接噴射すること、そしてボイラに安全弁を取り付けることなどがありました。これにより機関の効率と安全性が向上しましたが、根本的な問題の解決や大規模化には至らず、小規模な給水用途などに適していると評価されました。

動力源としての活用

セイヴァリ機関は、揚水のみならず、水車と組み合わせて動力源としても利用されました。水量が得られない場所でも、揚水した水を水車に落とすことで回転力を得ることができたためです。この場合、水車の回転を利用して機関の弁操作を自動化することが比較的容易でした。特にランカシャー地方の初期の大規模工場や綿花工場では、機械設備を動かす動力源として建造され、長年使用された例もあります。

その後の生涯と影響

セイヴァリの晩年については多くが知られていませんが、1702年から1714年にかけて「技術士官（Engineering officer）」として活動していた記録があります。1705年には海軍省傷病者委員会の収入役の職に就き、同年には王立協会のフェローにも選ばれています。同時期には、自身の機関を鉱山に設置することを断念しつつも、ダートマスで蒸気機関を開発していたトマス・ニューコメンと会い、ニューコメンが開発する機関がセイヴァリの特許の範囲内であることを認めさせ、両者間の合意が形成されたとされています。スペイン王位継承戦争の終結に伴い、1713年に委員会での職を解かれ、その2年後の1715年5月15日に死去しました。彼の死後、その特許権は「火による揚水の発明の所有者団」というジョイント・ストック・カンパニーに引き継がれました。この会社は、ニューコメンが開発し、1712年以降「セイヴァリ機関」として広く普及した改良型蒸気機関に関しても、1733年に特許が切れるまでその権利を行使しました。

トーマス・セイヴァリが発明した「火の機関」は、多くの技術的課題を抱えつつも、商業的に実用化された最初の蒸気機関として、蒸気機関という新たな動力源の可能性を示し、後の技術革新、特にトマス・ニューコメンによる改良型蒸気機関の開発へと道を開いた、重要な一歩であったと言えるでしょう。

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