ドゥホボール派

ドゥホボール派：聖霊を巡る戦いと平和への希求

ドゥホボール派は、18世紀にロシアとウクライナで誕生したキリスト教の教派です。その名は「聖霊と戦う者」を意味しますが、これは彼らが聖霊を否定しているという誤解に基づくものでした。実際には、「聖霊と共に戦う者」として、既存の権威や教義に異を唱え、独自の信仰を追求しました。

ドゥホボール派の信仰と特徴

ドゥホボール派は、神秘主義、絶対的平和主義、無政府主義の傾向が強く、以下の様な特徴があります。

内なる神の存在: 全ての人間の中に神が宿ると信じ、聖職者や教会組織を不要とします。
世俗的権威の否定: 国家権力や軍隊を否定し、兵役を拒否します。
共同生活の実践: 土地を共有し、共同で農業を営む生活を送ります。
非暴力主義: どのような状況下でも暴力を振るわないことを徹底します。

これらの思想は、当時のロシア社会においては異端とみなされ、弾圧の対象となりました。

ロシア帝国からの迫害とカナダへの移住

ドゥホボール派は、ロシア正教会の権威を否定し、兵役を拒否したため、ロシア帝国から激しい迫害を受けました。多くの信徒が逮捕、投獄され、シベリアに流刑に処されました。

19世紀末、国際的な批判が高まる中、ロシア帝国政府はドゥホボール派の国外追放を決定しました。カナダ政府が彼らを受け入れたため、1899年以降、約7,400人のドゥホボール派信徒がカナダに移住しました。
移住の際には、クエーカー教徒やトルストイ主義者、そして作家のレフ・トルストイ自身も資金援助を行いました。トルストイは小説『復活』の印税を移住費用に充てたことは有名な話です。

カナダでの生活と分裂

カナダに移住したドゥホボール派は、政府から土地の提供や兵役免除などの保護を受け、共同生活を始めました。しかし、カナダ社会への同化をめぐり、内部で意見が対立し、以下の3つのグループに分裂しました。

個人所有派: カナダ社会への同化を積極的に進め、土地の個人所有を認めました。
コミュニティ派: 伝統的な共同生活を維持し、信仰を守り続けました。
自由主義派: 過激な行動を取り、カナダ政府や社会に抵抗しました。全裸での行進や放火事件などを起こし、社会問題化しました。

現代のドゥホボール派

現在、カナダには2万から4万人のドゥホボール派の子孫が住んでいますが、信仰を守っているのは約4千人程度です。ロシアやグルジアなどの近隣諸国にも約3万人が暮らしています。

ドゥホボール派は、その特異な信仰と生き方から、様々な議論を呼んできました。彼らの歴史は、権力からの迫害、共同体の維持、そして社会への適応という、普遍的なテーマを私たちに投げかけています。

史跡と博物館

ドゥホボール派の歴史に触れることができる史跡や博物館がいくつかあります。

サスカチュワン州ヴェリギンのコミュニティ派ドゥホボール派本部跡：カナダ国定史跡に指定されています。
ブリティッシュコロンビア州キャスルガー：ドゥホボール派博物館（Doukhobor Discovery Center）があります。
カナダ文明博物館（オタワ）：ドゥホボール派関係の収蔵品が展示されています。

ドゥホボール派の足跡を辿ることで、彼らの信仰と苦難の歴史をより深く理解することができるでしょう。

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