ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ

モーリス・ラヴェルの連作歌曲『ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ』

『ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ』（Don Quichotte à Dulcinée）は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1932年から1933年にかけて作曲した、オーケストラ伴奏による3曲からなる連作歌曲です。詩はポール・モランによって書かれました。この作品は、ラヴェルが脳疾患のために作曲活動を停止する直前に完成した最後の作品としても知られています。

映画音楽としての依頼と不採用

当初、この歌曲は1933年の映画『ドン・キホーテ』(Don Quixote)の劇中歌として依頼されました。映画の監督はG.W.パプスト、主演はフョードル・シャリアピンでした。しかし、映画製作側はラヴェルの他にファリャ、ミヨー、イベールといった複数の作曲家にも同時に楽曲を依頼し、コンペのような形式で採用曲を選考していました。この事実は作曲家たちには知らされておらず、結果としてイベールの楽曲が採用されました。イベールの曲は映画の中でシャリアピンによって歌われましたが、この選考方法は後に訴訟問題にまで発展しました。

コンサート用作品としての発表

映画音楽としては不採用となったものの、ラヴェルの作曲した3つの歌曲は、その音楽的な価値を認められ、コンサート用の作品として発表されました。初演は1934年12月1日、パリのシャトレ座で行われました。マルシャル・ザンゲがバリトン独唱を務め、ポール・パレー指揮のコンセール・コロンヌが演奏しました。

編成

この歌曲は、以下の楽器編成で演奏されます。
バリトン独唱
フルート2
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット
カスタネット
ヴィブラフォン
ハープ
弦五部

また、1934年頃にはピアノ伴奏版も作られました。

構成

全3曲から構成され、演奏時間は全体で約7分です。各曲の演奏時間は以下の通りです。

第1曲「空想的な歌」（Chanson romanesque）：約2分
第2曲「英雄的な歌（叙事詩風の歌）」（Chanson épique）：約3分
第3曲「酒の歌」（Chanson à boire）：約2分

各曲について

第1曲「空想的な歌」：ドン・キホーテのロマンティックな夢想が表現されています。
第2曲「英雄的な歌（叙事詩風の歌）」：ドン・キホーテの騎士道精神や英雄的な側面が描かれています。
第3曲「酒の歌」：陽気でリズミカルな曲調で、ドン・キホーテの人間味あふれる一面が表現されています。

まとめ

『ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ』は、映画音楽として日の目を見なかったものの、ラヴェルの音楽的才能が凝縮された、晩年の傑作として高く評価されています。ポール・モランの詩とラヴェルの音楽が織りなす、繊細で豊かな世界観は、聴く者を魅了し続けています。

参考文献

作曲家別名曲解説ライブラリー ラヴェル（音楽之友社）

外部リンク

* ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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