ドゥル・シャルキン

ドゥル・シャルキン：サルゴン2世の壮大な夢と悲劇

イラク北部、モースル近郊のホルサバード遺跡に広がるドゥル・シャルキンは、アッシリア帝国のサルゴン2世が紀元前8世紀末に建設した首都です。壮大な都市計画と精緻な建築、そして数々の芸術作品で知られる一方、その短い歴史は、栄光と悲劇に彩られています。

建設の経緯と都市計画

サルゴン2世は、722年から705年までアッシリア王として君臨しました。数々の遠征で莫大な富を蓄えた彼は、帝国の中心地としてふさわしい新たな首都の建設を計画します。ドゥル・シャルキンは、既存の都市を拡張するのではなく、ゼロから創り出された全く新しい都市でした。

建設地は、カルフというアッシリアの中心地に近い、戦略的に重要な場所でした。サルゴン2世は、土地所有者であったマガヌッバ村の住民に適切な対価を支払い、土地を買い取ったと主張しています。

都市計画は、広大な3平方キロメートルに及ぶもので、アッシリア最大の都市となることを目指していました。王は、都市の人口を支えるための灌漑システムの整備にも着手しました。建設には、フェニキアから木材や資材、職人までもが動員され、莫大な費用と労力が投じられました。建設に従事した人々の負債は免除され、労働力確保にも工夫が凝らされていました。

ドゥル・シャルキンの設計は、カルフの影響を受けてはいますが、同一ではありませんでした。カルフが自然発生的に発展した都市だったのに対し、ドゥル・シャルキンでは、計画に基づいた厳格な都市設計が採用されています。巨大な基壇の上に建つ王宮と神殿群、堅固な城壁、そして7つの壮麗な門が、整然と配置されていました。

王宮と芸術

ドゥル・シャルキンの王宮は、それまでのアッシリア王宮をはるかに凌駕する規模と豪華さを誇っていました。宮殿の壁面は、精緻な浮彫で飾られ、サルゴン2世の征服の記録、特にウラルトゥ遠征やムサシルの略奪が鮮やかに描かれていました。これらの浮彫は、アッシリア美術の最高傑作の一つと評価されています。

門には、高さ数メートルにも及ぶ人頭有翼雄牛像（ラマス）が配置され、威圧的な風格を演出していました。王宮には、サルゴン2世の権力を象徴する庭園も造られました。この庭園には、様々な珍しい植物や果樹が植えられ、「権力と征服の記録」を示す象徴的な空間でした。

悲劇的な終焉

ドゥル・シャルキンの建設は、サルゴン2世の死によって中断されました。705年、彼は戦死し、その遺体は回収されませんでした。息子であるセンナケリブは、父の死を神罰と見なし、ドゥル・シャルキンの建設を中止、首都をニネヴェに移しました。

サルゴン2世の死後、ドゥル・シャルキンは放棄され、完成を見ることはありませんでした。その後のアッシリア帝国の滅亡とともに、この壮大な都市は歴史の闇の中に葬り去られていきました。

考古学的調査とISILによる破壊

ドゥル・シャルキンの遺跡は、19世紀半ばからフランス人考古学者らによって発掘調査が行われ、多くの貴重な遺物が発掘されました。しかし、発掘品は、輸送中の事故によって多くが失われました。20世紀には、アメリカやイラクの考古学者による発掘も進められ、アッシリア美術や建築、楔形文字の解読に貢献しました。

2015年には、ISIL（イスラーム国）による略奪と破壊が行われ、遺跡は深刻な被害を受けました。これは、人類の共有遺産に対する重大な損失です。

ドゥル・シャルキンの遺跡は、アッシリア帝国の栄華と没落、そして人類の文明と破壊の歴史を物語る、貴重な証です。その歴史的意義と芸術的価値は、今後も研究と保護の対象として、世界的な注目を集めるでしょう。

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