センナケリブ

センナケリブ：アッシリア帝国の栄光と悲劇

センナケリブ（Sennacherib、紀元前705年-紀元前681年在位）は、新アッシリア帝国を代表する強大な王です。その治世は、軍事力による帝国拡張と大規模な都市建設事業によって特徴づけられ、アッシリア帝国の黄金時代を築き上げました。しかし、反乱の鎮圧やその後のバビロン破壊など、残忍な一面も持ち合わせていたことから、複雑な評価を受けています。

生涯と背景

センナケリブは、アッシリアの王サルゴン2世の息子として紀元前745年頃、おそらくカルフで誕生しました。彼の名前「シン・アヘ・エリバ」は、「シン神が兄弟たちの代わりを賜れり」を意味し、生前に兄たちが亡くなっていたことを示唆しています。王太子時代には、ニネヴェやタルビスに居城を構え、父の代理として行政や政治、軍事に関わる重要な任務を担っていました。これはサルゴン2世からの絶大な信頼の表れと言えるでしょう。

アッシリアとバビロニアの係争

センナケリブが即位した当時、新アッシリア帝国は中東の覇者として君臨していました。しかし、南方のバビロニアは、カルデア人やアラム人などの諸民族の抗争が絶えず、アッシリアにとって常に不安定要素でした。アッシリアとバビロニアは長きにわたって対立関係にあり、センナケリブもバビロニアの支配を巡って大きな困難に直面します。

特に、カルデア人の首長メロダク・バルアダン2世はセンナケリブの最大の敵となり、幾度も反乱を起こしてアッシリアの支配を脅かしました。センナケリブは度々バビロニアに遠征を行い、メロダク・バルアダン2世を追い詰めますが、その抵抗は根強く、最終的には前689年にバビロンを破壊するという決断にまで至ります。

レヴァント遠征とエルサレム包囲

バビロニア問題と並行して、センナケリブはレヴァント地方にも軍事遠征を行いました。その中で、ユダ王国のヒゼキヤ王の反乱は大きな問題となります。前701年、センナケリブはユダに侵攻し、多くの都市を征服しました。エルサレム包囲も有名ですが、聖書には天使の介入によりアッシリア軍が壊滅したと記されています。この出来事については、アッシリア側の記録、聖書の記述、その他様々な解釈が存在し、未だに議論の的となっています。しかし、最終的にはヒゼキヤ王はアッシリアへの服属を改めて誓うことになります。

ニネヴェ建設

センナケリブは首都をニネヴェに移し、大規模な都市建設事業を展開しました。彼の「無比の宮殿」を筆頭に、巨大な市壁、神殿、庭園などが建設され、ニネヴェは帝国にふさわしい壮麗な首都へと生まれ変わりました。この建設事業は、古代世界の中でも最も野心的なプロジェクトの一つです。

暗殺とその後

前684年には、当初の王太子であった長男アッシュル・ナディン・シュミがエラム人に殺害され、センナケリブはその後継者に弟のエサルハドンを任命します。しかし、これによって兄アルダ・ムリッシの反感を買ってしまい、前681年にアルダ・ムリッシとナブー・シャル・ウツルらによって暗殺されてしまいます。センナケリブの死は、アッシリア帝国内部で激しい権力闘争を引き起こします。最終的にエサルハドンが新たな王位に就きましたが、その治世もまた、センナケリブの残した複雑な遺産と影を伴うものでした。

センナケリブの遺産

センナケリブは、その強大な軍事力と大規模な建築事業によってアッシリア帝国の繁栄に貢献しましたが、一方でバビロン破壊やエルサレム包囲など、残忍な行為も行ったため、後世においても毀誉褒貶の評価を受けています。彼の治世は、アッシリア帝国の全盛期と同時に、その衰退の兆候を示唆する複雑な時代であったと言えます。考古学的発見や史料の解読が進み、センナケリブの生涯とその影響については、現在も新たな知見が得られ続けています。

もう一度検索