ドニエプル・ドネツ文化

ドニエプル・ドネツ文化：狩猟採集と農耕のはざまで

ドニエプル・ドネツ文化は、紀元前5千年紀から紀元前4千年紀にかけて、現在のウクライナ東部、ベラルーシ南部、ロシア南西部に広がった後期新石器時代の文化です。黒海の北方に位置し、半地下式の住居を構えていました。その生活様式は、狩猟と漁業が中心でした。狩りの対象は、オーロックス、ヘラジカ、シカ、イノシシ、野ロバなど多岐に渡り、小麦、キビ、エンドウ豆などの栽培も行っていました。

人々の食生活は、動物性タンパク質を多く含んでいました。歯の分析からは、獣肉や魚介類、ナッツ類を多く摂取していたことが示唆されます。安定同位体分析の結果からは、植物性の食物も摂取していたことが確認されていますが、その割合は小さかったようです。これらのことから、ドニエプル・ドネツ文化は、狩猟採集経済から農耕・牧畜経済への移行期にあったと考えられています。

特筆すべきは、彼らの埋葬方法です。およそ30カ所の集団墓地から、800体以上の遺骨が発見されています。個人用の墓所もありますが、多くの場合、大きな墓穴を掘って、遺体と黄土を積み重ねる独特な埋葬方法が採用されていました。

注目すべきは、彼らの体格です。発掘された遺骨から復元された人々の体格は、当時のヨーロッパの人々よりもはるかに大きく、がっしりとした体格をしていたことが分かっています。この特徴から、一部の形質人類学者たちは、ドニエプル・ドネツ文化の人々と旧石器時代の北欧の人々との関連性を指摘しています。

ドニエプル・ドネツ文化は、その前の時代にヴォルガ川流域に存在したサマラ文化と類似した特徴を持っています。これは、紀元前5千年紀という早い時期に、ドニエプル川流域とヴォルガ川流域を含む広い地域に一つの文化圏が存在していたことを示唆しています。

この地域は、クルガン仮説においてインド・ヨーロッパ語族の原郷として想定されています。ドニエプル・ドネツ文化は、この仮説において重要な位置を占めており、インド・ヨーロッパ語族の起源に関する議論の中心に据えられています。

クルガン仮説では、ドニエプル・ドネツ文化は前インド・ヨーロッパ語族文化とみなされており、南方や東方ステップ地帯からこの地域へ進出してきたインド・ヨーロッパ祖語話者である牧畜民（スレドニ・ストグ文化やクヴァリンスク文化の担い手など）に吸収されたと考えられています。この過程において、ドニエプル・ドネツ文化の人々は、後のインド・ヨーロッパ語族の身体的特徴に大きな影響を与えたと考えられていますが、言語的には大きな影響は与えなかったと考えられています。

ドニエプル・ドネツ文化はドニエプル川上流域にも拡大し、バルト語派の言語との関連性が指摘される河川名も存在しています。この地域では、ドニエプル・ドネツ文化の人々と、同時代の非インド・ヨーロッパ語族系文化との交流があったことが示唆されており、後のバルト語派諸部族の成立に深い関わりがあったと考えられています。

ドニエプル・ドネツ文化は、狩猟採集と初期農耕、そして独特の埋葬文化と体格など、多くの謎を秘めた魅力的な文化です。今後の研究によって、その全貌がより明らかにされることが期待されます。

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