ドラジェン・ペトロヴィッチ

ドラジェン・ペトロヴィッチ：バスケットボール界の至宝

ドラジェン・ペトロヴィッチ（Dražen Petrović, 1964年10月22日 - 1993年6月7日）は、クロアチアが生んだ、20世紀後半を代表するバスケットボール選手です。卓越したシューティング能力とリーダーシップで、ユーゴスラビア代表、クロアチア代表の中心選手として活躍し、オリンピックや世界選手権などの国際舞台で数々のメダルを獲得しました。また、NBA（ナショナル・バスケットボール・アソシエーション）で最初に成功を収めたヨーロッパ出身選手の一人として、その名を歴史に刻んでいます。

生い立ちとキャリア初期

ペトロヴィッチは、クロアチアのシベニクで生まれ育ちました。兄のアレクサンダル・ペトロヴィッチもバスケットボール選手で、兄弟揃ってユーゴスラビア代表として活躍しています。13歳で地元のクラブ、KKシベンカのユースチームに入団し、15歳でトップチームに昇格。早くからその才能を発揮し、チームの若きスターとして注目を集めました。

1980年代初頭には、コラチカップで2度準優勝を経験。1983年のユーゴスラビアクラブ選手権では、試合終了間際にフリースローを2本決め、チームを優勝に導きましたが、後に審判の不正があったとして優勝は剥奪されるという不運にも見舞われました。

兵役後、1984年にザグレブのKKツィボナへ移籍。この移籍が、ペトロヴィッチのキャリアをさらに飛躍させるきっかけとなります。移籍初年度から、ユーゴスラビア選手権とナショナルカップで優勝。欧州チャンピオンズカップ（現在のユーロリーグ）決勝では、36得点を挙げ、レアル・マドリードを破って優勝を果たしました。翌年も、アルヴィーダス・サボニス率いる強豪BCジャルギリスを破り、チャンピオンズカップ連覇を達成。国内リーグ、ヨーロッパのクラブ大会で圧倒的な成績を残し、その名をヨーロッパ中に轟かせました。

NBAへの挑戦

ヨーロッパでの輝かしい実績を引っ提げ、1989年にペトロヴィッチはNBAのポートランド・トレイルブレイザーズに入団。しかし、クライド・ドレクスラーなどのスター選手が在籍するチームにおいて、十分な出場機会を得ることができませんでした。不満を抱えたペトロヴィッチは、1991年にニュージャージー・ネッツへ移籍。この移籍が、彼の才能をNBAで開花させる転機となりました。

ネッツでは、ケニー・アンダーソンやデリック・コールマンらと共にプレーし、持ち前の得点能力を発揮。1991-92シーズンには、全試合に先発出場し、チームの得点リーダーとして活躍しました。ガードの選手としてはトップレベルのシュート成功率を誇り、3ポイントシュート成功率もリーグ上位にランクイン。チームを初のプレーオフ進出に導き、年間最優秀選手に選ばれました。1992-93シーズンも、リーグ屈指のスコアラーとして活躍し、オールNBAサードチームに選出されるなど、NBAでの地位を確立しました。

ナショナルチームでの輝き

ペトロヴィッチは、ユーゴスラビア代表、そしてクロアチア代表の中心選手として、数々の国際大会で目覚ましい活躍を見せました。1984年ロサンゼルスオリンピック、1986年バスケットボール世界選手権で銅メダル、1988年ソウルオリンピックで銀メダル、1990年バスケットボール世界選手権で金メダルを獲得。クロアチア独立後の1992年バルセロナオリンピックでは、決勝でアメリカの「ドリームチーム」に敗れたものの、銀メダルを獲得しました。クロアチア代表として、彼は常にチームを牽引し、その卓越したプレーで観客を魅了しました。

突然の悲劇

NBAでの活躍、そしてクロアチア代表としてのさらなる飛躍が期待されていた1993年6月7日、ペトロヴィッチはドイツで交通事故に遭い、28歳という若さでこの世を去りました。突然の悲報は、バスケットボール界に大きな衝撃を与え、世界中のファンが彼の死を悼みました。

遺された功績

ドラジェン・ペトロヴィッチの早すぎる死は、バスケットボール界にとって計り知れない損失でした。しかし、彼が残した功績は、今もなお多くの人々に語り継がれています。ヨーロッパのバスケットボールをNBAに紹介し、そのレベルを引き上げるのに貢献。多くのヨーロッパ人選手がNBAに挑戦する道を開きました。その卓越した技術、情熱的なプレースタイル、そして不屈の精神は、多くのバスケットボールファンに感動を与え、今もなお愛され続けています。

ペトロヴィッチの死後、彼の功績を称え、ツィボナ・スタジアムは「ドラジェン・ペトロヴィッチ・バスケットボールホール」と改称され、ザグレブには彼の名前がつけられた通りができました。ニュージャージー・ネッツは彼の背番号3番を永久欠番とし、マクドナルド選手権のトロフィーは「ドラジェン・ペトロヴィッチ・トロフィー」と呼ばれるようになりました。2002年にはバスケットボール殿堂入りを果たし、2006年にはザグレブにドラジェン・ペトロヴィッチ・メモリアルセンターが完成。2007年にはFIBA殿堂入りも果たしました。2008年には、ユーロリーグ史上の偉大な50人に選ばれるなど、彼の功績は永遠に称えられています。

ドラジェン・ペトロヴィッチは、バスケットボールの歴史に名を刻む、まさに伝説的な選手でした。

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