ドラマ (アルバム)

イエス『ドラマ』：変革期の異色作

『ドラマ』は、プログレッシブ・ロックバンド、イエスが1980年に発表したアルバムです。スタジオアルバムとしては10作目にあたり、20世紀に発表されたイエス名義のアルバムとしては、ジョン・アンダーソンがボーカルを担当していない唯一の作品として知られています。

制作の背景

前作『トーマト』の制作段階から、イエスの音楽とメンバーの関係は不調に陥っていました。1979年12月には、ジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンが脱退。クリス・スクワイア、アラン・ホワイト、スティーヴ・ハウの3人は、マネージャーのブライアン・レーンが契約していたバグルスのトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズを迎え、新たな体制で本作の制作に臨みました。

アンダーソンの脱退はイエスにとって大きな痛手であり、ホーンがその穴を埋めるのは容易ではありませんでした。1981年、イエスは活動を停止し、ホーンとダウンズはバグルスの活動を再開。結果として、『ドラマ』は、この5人によって制作された唯一のアルバムとなりました。

アルバムの特徴

本作は、従来のイエスの音楽性とは異なる、新しいサウンドを追求した作品です。トレヴァー・ホーンのボーカルと、ジェフ・ダウンズのシンセサイザーが、イエスの音楽に新たな彩りを加えています。しかし、長年のファンからは賛否両論があり、評価が分かれる作品でもあります。

その後

ホーンは1981年に、『ドラマ』に収録された「レンズの中へ」を改作した「アイ・アム・ア・カメラ」をバグルス名義で発表。1982年のアルバム『モダン・レコーディングの冒険』にも収録しました。また、スクワイアとホワイトは1983年に活動を再開したイエスのライブで、『ドラマ』の「光陰矢の如し」をフィーチャーした「ホワイトフィッシュ」というソロを演奏しました。

『ドラマ』の収録曲候補だったハウ作の「ゴー・スルー・ディス」と、ダウンズとホーンの共作「ウィー・キャン・フライ・フロム・ヒア」は、制作段階でお蔵入りとなりましたが、アルバム発表後のツアーで披露されました。後者は2011年に、スクワイア、ホワイト、ハウ、ダウンズ、ベノワ・ディヴィッドによるイエスが、ホーンをプロデューサーに迎えて発表したアルバム『フライ・フロム・ヒア』に、20分を超える大作のタイトル曲として収録されています。

収録曲

マシン・メサイア
白い車
光陰矢の如し
レンズの中へ
愛の支配
光を超えて

2004年には、リマスター盤CDが発売され、音質が向上した他、ボーナストラックが追加収録されています。

レコーディング・メンバー

ジェフ・ダウンズ – キーボード、ヴォコーダー
トレヴァー・ホーン – リードヴォーカル、フレットレスベース（「光を超えて」のみ）
スティーヴ・ハウ – ギター、バッキングヴォーカル
クリス・スクワイア – ベース、バッキングヴォーカル、ピアノ（「光を超えて」のみ）
* アラン・ホワイト – ドラムス、パーカッション

『ドラマ』は、イエスの歴史において、重要なターニングポイントとなった作品です。ジョン・アンダーソン不在という状況下で、新たな音楽性を追求した本作は、イエスの音楽の幅を広げる上で大きな役割を果たしました。

もう一度検索