ドリトル先生と緑のカナリア

ドリトル先生と緑のカナリア：あらすじと解説

ヒュー・ロフティングによる児童文学作品『ドリトル先生と緑のカナリア』は、ドリトル先生シリーズの11作目にあたります。1950年に刊行された本書は、作者の死後、妻であるジョセフィン夫人と義妹のオルガ・フリッカー（本書ではオルガ・マイクル名義）によって完成されました。オルガ・フリッカーは生前よりロフティングの執筆に協力し、その文才を高く評価されていた人物です。巻頭にはジョセフィン夫人による本書の成立過程が記されています。

本作は、時系列的にシリーズ第6作『キャラバン』と密接に関連しています。物語は大きく3部構成となっており、第1部と第2部は『キャラバン』と並行して展開し、第3部は『キャラバン』の後日談として描かれています。

驚くべきカナリア、ピピネラ

ロンドン公演を控えたドリトル先生率いるサーカス団は、新たな出し物に頭を悩ませていました。ロンドン郊外のグリーンヒースで会場の下見をしていた先生は、あるペットショップで美しい歌声を奏でるカナリアに出会います。そのカナリアこそが、本作の主人公であるピピネラです。

ピピネラは、一般的に雌のカナリアは鳴かないという通説を覆す、美しく歌う雌のカナリアでした。ペットショップという劣悪な環境から救い出されたピピネラは、ドリトル先生やサーカスの仲間たちと出会い、自身の驚くべき半生を語り始めます。

波乱万丈な半生

ハルツ山種のカナリアの父とカワラヒワの母を持つピピネラは、6羽の兄弟姉妹の長女でした。幼い頃から「雌のカナリアは鳴いてはいけない」というしきたりに反発し、ひっそりと歌の練習を続けるピピネラは、七海亭という宿屋の厩舎で飼われることになります。そこで彼女は宿の仕事の手伝いをしながら、様々な歌を作曲します。

その後、ピピネラは侯爵に買い取られますが、産業革命時代の混乱の中で、侯爵の城が暴徒に襲撃され、火災に巻き込まれます。危機一髪のところでフュージリア連隊の兵士に救出されたピピネラは、連隊のマスコットとして各地を転戦します。しかし、再び労働者の手に渡り、炭鉱で危険な日々を送ることになります。その後、親切なロージーおばさんに救出され、新たな生活が始まります。

ロージーおばさんの家では、ピピネラは最初の夫、ツインクと出会い、子供たちを育てます。しかし、様々な転々としながら、最終的にはペットショップでドリトル先生と出会うのです。

ドリトル先生との再会とその後

ドリトル先生は、ピピネラの驚くべき半生と歌声に魅了され、「カナリア・オペラ」を企画します。オペラは大成功を収めますが、サーカス団解散後、先生はピピネラの最初の飼い主である窓ふき屋の行方を探すことになります。

ウィンドルミアやロンドンを巡り、様々な困難を乗り越え、先生は窓ふき屋を発見します。実はその窓ふき屋は、ローボロー公爵であり、弟に爵位を譲ってジャーナリストとして活動していた人物だったのです。

様々な騒動の末、ピピネラの原稿は無事に持ち主である公爵の手に戻り、先生はピピネラと共にパドルビーの自宅へと帰るのでした。

翻訳について

本書は、長らく岩波書店版のみが刊行されていましたが、2015年には角川つばさ文庫より新訳版が刊行され、より多くの読者に親しまれるようになりました。

この物語は、ピピネラの波乱万丈な人生を通して、時代の変化や人々の生き様を描き出し、動物と人間の温かい交流を描いた感動的な作品です。 美しく歌うカナリア、ピピネラとドリトル先生、そして彼らを取り巻く人々の物語は、読者に深い感動を与えてくれることでしょう。

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