ドルビーHX PRO

ドルビーHX PRO（Dolby HX Pro）は、ドルビーラボラトリーズが1982年に開発した、テープレコーダーの録音品質を向上させるための画期的なシステムです。従来のドルビーHX（Dolby HX）をベースに、高域特性の改善を追求したもので、その名称は「Headroom eXtension Process」に由来します。

ドルビーHX PROの仕組み

テープレコーダーで録音を行う際、音声信号に交流バイアス信号を重ねることで、録音の直線性を確保しています。しかし、音声信号に高域成分が含まれていると、この高域成分が交流バイアスと同様の働きをしてしまい、録音バイアス量が過多となった場合と同じように、高域のレスポンスや最大録音レベルが低下する問題が生じます。

ドルビーHX PROは、この問題を解決するために、音声信号の高域成分を検出し、そのレベルに応じて録音バイアス量を1ミリ秒ごとに動的に制御します。これにより、高域特性の低下を抑制し、よりクリアでダイナミックな録音を可能にします。

ドルビーHXとの違い

ドルビーHX PROは、従来のドルビーHXと同様に、ノーマルポジション（IEC TYPE I）のカセットテープを使用した場合にのみ、その効果を発揮します。これは、テープの特性とシステムが最適に動作するように設計されているためです。また、ドルビーHX PROはエンコード（録音）時のみに処理を行い、デコード（再生）時には何の処理も行いません。このため、他のドルビーノイズリダクションシステムとは異なり、再生互換性の問題が発生しないという大きな利点があります。

ドルビーHX PRO搭載のテープレコーダーは、一部の高級機種を除き、通常はオン/オフのスイッチを設けずに常時作動するよう設計されています。これは、常に最適な録音品質を提供するための配慮であり、ユーザーは特に意識することなくその恩恵を受けることができます。

音楽業界での採用

ドルビーHX PROは、その優れた録音性能から、東芝EMI（現：ユニバーサルミュージックジャパン）やワーナー・パイオニア（現：ワーナーミュージック・ジャパン）などのレコード会社によって、ミュージックテープに広く採用されました。J-POPをはじめ、ロック、歌謡曲、演歌、フュージョン、ジャズなど、ジャンルを問わず多くの音楽作品で、その高音質を支えてきました。

ドルビーHX PROの終焉

2013年12月、ティアックの「W-890R」の生産終了・出荷終了により、ドルビーHX PROは、その歴史に幕を下ろしました。この機種は、当時新品で購入できる唯一のドルビーHX PRO搭載カセットデッキであり、ドルビーBタイプNRを搭載し、ハイポジション（クロムポジション）テープの録音・再生、およびメタルポジションテープの再生に対応していました。1982年の製品化開始から31年、ドルビーHX PROは、その役割を終えたのです。

関連技術

• - ドルビーラボラトリーズ: ドルビーHX PROを開発した企業。
• - ドルビーHX: ドルビーHX PROの前身となるシステム。
• - ドルビーノイズリダクション: ドルビーが開発したノイズ低減技術。ドルビーHX PROとは異なる目的を持つ技術。

ドルビーHX PROは、カセットテープの録音技術において重要な役割を果たしたシステムです。その技術的な革新性と、音楽業界への貢献は、今後も語り継がれるでしょう。

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