ドローン (音楽)

音楽におけるドローンとは

音楽の世界において「ドローン」（英: drone）という言葉は、特定の音、あるいは特定の音程（例えば完全五度）が、楽曲の進行中、あるいはごく長い時間にわたって持続し続ける状態や、その音そのものを指します。これは「持続音」とも訳され、楽曲の土台を形成したり、独特の雰囲気を醸し出したりする上で重要な役割を果たします。

ドローンと混同されやすい概念に「オルゲルプンクト」（独: Orgelpunkt）がありますが、両者には明確な違いがあります。オルゲルプンクトは、主にクラシック音楽における機能和声や対位法の枠組みの中で、終止形（カデンツ）の一部として低音部などに置かれる持続音であり、その持続時間はドローンに比べて比較的短い傾向があります。一方、ドローンは特定の和声機能に縛られることなく、楽曲の構造や雰囲気に大きく影響を与える、より長く継続される音響要素として用いられます。

ドローンが活躍する音楽ジャンル

ドローンは、世界中の様々な音楽文化において見られます。

民族音楽

民族音楽においては、ドローンは非常にポピュラーな要素です。その典型的な例として挙げられるのが、スコットランドなどで伝統的に演奏されるバグパイプです。バグパイプには、主旋律を演奏するチャンターの他に、一定の低い音を持続して出すためのドローンパイプが複数取り付けられており、これが常に楽曲の基盤となる響きを提供します。

インドの伝統音楽においても、ドローンは欠かすことのできない要素です。特に古典音楽では、主音（サ）と属音（パ）、すなわち完全五度の関係にある二音を持続させることが一般的であり、これが旋律楽器や打楽器の演奏の背景を常に支えます。タンプーラ（タンブーラ）は、このドローンを持続的に奏でるためだけに特化された撥弦楽器であり、インド音楽の演奏に不可欠な存在です。

日本の伝統音楽にもドローン的な用法が見られます。例えば、薩摩琵琶では四本ある弦のうち、最も低い音を出す四の弦を、他の弦で旋律を奏でる際にも開放弦のまま響かせ続けることがあり、これがドローンとして機能します。

現代音楽

ドローンは現代音楽においても、民族音楽からの示唆を得る形で積極的に取り入れられています。特に、ミニマル・ミュージックなどの分野では、ドローンが楽曲の中心的な要素となることがしばしばあります。アメリカの作曲家ラ・モンテ・ヤングの音楽は、ドローンそのものであると言っても過言ではなく、一つのドローンが数時間にわたって響き続けるという、聴覚の経験そのものに焦点を当てた作品を生み出しています。

ドローンを使用する代表的な楽器

ドローンを特徴的な要素として使用する楽器は多岐にわたります。主なものをいくつか挙げます。

鍵盤楽器: ハルモニウム（足踏み式の小型オルガンで、特定の音を持続させやすい）
擦弦楽器: ハーディー・ガーディー（手回し式の弦楽器で、ドローン弦を持つ）、ヨウヒッコ（中国の擦弦楽器）
撥弦楽器: シタール（インドの撥弦楽器で、共鳴弦やドローン弦を持つものがある）、マウンテン・ダルシマー（アメリカの民族楽器）、ストラム・スティック（ダルシマーの簡易版）、大正琴（特定の弦を開放弦として響かせる用法がある）
吹奏楽器: フルス（ひょうたん笛、複数のパイプを持ちドローン音を出せるものがある）

これらの楽器は、それぞれの文化や様式の中でドローンを活用し、音楽に深みや独特の色彩を与えています。

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