ドン・ウン・ロマン
ドン・ウン・ロマン（Dom Um Romão、1925年8月3日 - 2005年7月27日）は、ブラジルが生んだ卓越したドラマー、そしてパーカッション奏者です。彼は、ボサノヴァ特有の躍動的なリズムをジャズの演奏スタイルに融合させた初期の音楽家の一人として、世界的にその名を馳せました。単にリズムを刻むだけでなく、パーカッション楽器が持つ多様な音色や表現力を駆使し、多くの作品にブラジルならではの温かみと洗練をもたらしました。
ロマンの音楽活動は、1940年代後半にプロのドラマーとしてブラジルで始まりました。彼は自身の才能を磨き、1955年にはリーダー・グループ「コパ・トリオ」を結成するなど、精力的に演奏活動を展開します。1960年代に入り、ブラジル音楽が世界的な関心を集める中で、彼はセルジオ・メンデスに見出され、1961年にそのグループ「ブラジリアン・ジャズ・セクステット」のメンバーとなりました。
1962年は、ロマンのキャリアにおいて重要な年となりました。ニューヨークのカーネギー・ホールで開催された伝説的な「ボサノヴァ・フェスティヴァル」には、メンデス率いる「ボサ・リオ・セクステット」の一員として出演し、そのパフォーマンスは高く評価されました。同年、アメリカの著名なアルトサックス奏者キャノンボール・アダレイのアルバム『キャノンボールズ・ボサ・ノヴァ』の録音にも参加し、ジャズ界におけるボサノヴァ導入の重要な一翼を担いました。さらに、1964年にはブラジル国内で初のリーダー・アルバム『Dom Um』を発表するなど、自身の音楽的な探求も深めていきました。この時期、彼はジョルジ・ベンやフローラ・プリムといったブラジルの先駆的なミュージシャンたちのアルバムにも参加し、その多様な音楽性を示しています。
1965年にアメリカへ渡ってからも、ロマンはセルジオ・メンデスとの共同作業を継続しました。同時に、彼はその独特のパーカッション・スキルを活かし、多数のレコーディングセッションに招かれました。特に注目すべきは、20世紀を代表する歌手フランク・シナトラとブラジル音楽の巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンが共演した歴史的なアルバム『シナトラ&ジョビン』（1967年）への参加です。彼の演奏は、これらのクラシックな録音に、南米らしい色彩豊かなリズムテクスチャーを加えました。また、1970年には大阪万国博覧会で開催されたセルジオ・メンデス＆ブラジル'66の公演に参加するため来日も果たしています。
1970年代初頭、ロマンは再びキャリアの大きな転換期を迎えます。1971年、彼は当時、ジャズとロック、ファンクを融合させた先進的なサウンドで注目を集めていたフュージョン・バンド、ウェザー・リポートに、パーカッション奏者の後任として加入しました。ウェザー・リポートでの活動期間中、彼は『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』、『ライヴ・イン・トーキョー』、『スウィートナイター』、『ミステリアス・トラヴェラー』といったバンドの初期から中期にかけての重要作品に参加しました。彼のパーカッションは、ウェザー・リポートのサウンドに不可欠な要素となり、その実験的でダイナミックな音楽性を支えました。
ウェザー・リポートでの成功と並行して、ロマンは自身のリーダー・プロジェクトも積極的に推進しました。1972年には、アメリカでの本格的なデビュー作となるリーダー・アルバム『ドン・ウン・ロマン』をミューズ・レコードからリリースし、ソロアーティストとしての地位も確立しました。その後もコンスタントにリーダー作を発表する一方、ロン・カーター、ユセフ・ラティーフ、コリン・ウォルコット、ロバート・パーマーといった、ジャズはもとより多様なジャンルの著名なアーティストたちのレコーディングにゲスト参加し、その貢献は多岐に渡りました。
ドン・ウン・ロマンは、生涯を通じてリズムとサウンドの探求を続けました。2005年7月24日、新たなレコーディング中に脳卒中を発症し、その3日後の7月27日に、ブラジルのリオデジャネイロにて80歳の誕生日を迎える直前に惜しまれつつ永眠しました。
彼の遺した音楽は、ボサノヴァ、ジャズ、フュージョンといったジャンルの境界を軽々と越え、パーカッションという楽器の表現力の豊かさを示す好例として、今なお多くの音楽愛好家や後進のミュージシャンたちに影響を与え続けています。
Dom Um (1964年)
『ドン・ウン・ロマン』 - Dom Um Romão (1972年)
Spirit of the Times (1973年)
Braun-Blek-Blu (1974年)
Hotmosphere (1977年)
Om (1978年)
『パーカッション・プロファイルズ』 - Percussion Profiles (1978年) ※共同名義
Samba de Rua (1990年)
Saudades (1993年)
Rhythm Traveller (1999年)
『レイク・オブ・パーサヴィアンス』 - Lake of Perseverance (2001年)
Nu Jazz meets Brazil (2002年)
キャノンボール・アダレイ: 『キャノンボールズ・ボサ・ノヴァ』 (1962年)
ハービー・マン: 『ドゥ・ザ・ボサ・ノヴァ』 (1962年) 他
ジョルジ・ベン: 『サンバ・エスケーマ・ノーヴォ』 (1963年)
フローラ・プリム: Flora é M.P.M. (1964年)
アストラッド・ジルベルト: 『ルック・トゥ・ザ・レインボウ』 (1966年) 他
フランク・シナトラ&アントニオ・カルロス・ジョビン: 『シナトラ&ジョビン』 (1967年)
ウェザー・リポート: 『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』 (1972年) 他
ロン・カーター: 『イエロー&グリーン』 (1976年)
* ロバート・パーマー: 『HEAVY NOVA』 (1988年)
ロマンの音楽活動は、1940年代後半にプロのドラマーとしてブラジルで始まりました。彼は自身の才能を磨き、1955年にはリーダー・グループ「コパ・トリオ」を結成するなど、精力的に演奏活動を展開します。1960年代に入り、ブラジル音楽が世界的な関心を集める中で、彼はセルジオ・メンデスに見出され、1961年にそのグループ「ブラジリアン・ジャズ・セクステット」のメンバーとなりました。
1962年は、ロマンのキャリアにおいて重要な年となりました。ニューヨークのカーネギー・ホールで開催された伝説的な「ボサノヴァ・フェスティヴァル」には、メンデス率いる「ボサ・リオ・セクステット」の一員として出演し、そのパフォーマンスは高く評価されました。同年、アメリカの著名なアルトサックス奏者キャノンボール・アダレイのアルバム『キャノンボールズ・ボサ・ノヴァ』の録音にも参加し、ジャズ界におけるボサノヴァ導入の重要な一翼を担いました。さらに、1964年にはブラジル国内で初のリーダー・アルバム『Dom Um』を発表するなど、自身の音楽的な探求も深めていきました。この時期、彼はジョルジ・ベンやフローラ・プリムといったブラジルの先駆的なミュージシャンたちのアルバムにも参加し、その多様な音楽性を示しています。
1965年にアメリカへ渡ってからも、ロマンはセルジオ・メンデスとの共同作業を継続しました。同時に、彼はその独特のパーカッション・スキルを活かし、多数のレコーディングセッションに招かれました。特に注目すべきは、20世紀を代表する歌手フランク・シナトラとブラジル音楽の巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンが共演した歴史的なアルバム『シナトラ&ジョビン』（1967年）への参加です。彼の演奏は、これらのクラシックな録音に、南米らしい色彩豊かなリズムテクスチャーを加えました。また、1970年には大阪万国博覧会で開催されたセルジオ・メンデス＆ブラジル'66の公演に参加するため来日も果たしています。
1970年代初頭、ロマンは再びキャリアの大きな転換期を迎えます。1971年、彼は当時、ジャズとロック、ファンクを融合させた先進的なサウンドで注目を集めていたフュージョン・バンド、ウェザー・リポートに、パーカッション奏者の後任として加入しました。ウェザー・リポートでの活動期間中、彼は『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』、『ライヴ・イン・トーキョー』、『スウィートナイター』、『ミステリアス・トラヴェラー』といったバンドの初期から中期にかけての重要作品に参加しました。彼のパーカッションは、ウェザー・リポートのサウンドに不可欠な要素となり、その実験的でダイナミックな音楽性を支えました。
ウェザー・リポートでの成功と並行して、ロマンは自身のリーダー・プロジェクトも積極的に推進しました。1972年には、アメリカでの本格的なデビュー作となるリーダー・アルバム『ドン・ウン・ロマン』をミューズ・レコードからリリースし、ソロアーティストとしての地位も確立しました。その後もコンスタントにリーダー作を発表する一方、ロン・カーター、ユセフ・ラティーフ、コリン・ウォルコット、ロバート・パーマーといった、ジャズはもとより多様なジャンルの著名なアーティストたちのレコーディングにゲスト参加し、その貢献は多岐に渡りました。
ドン・ウン・ロマンは、生涯を通じてリズムとサウンドの探求を続けました。2005年7月24日、新たなレコーディング中に脳卒中を発症し、その3日後の7月27日に、ブラジルのリオデジャネイロにて80歳の誕生日を迎える直前に惜しまれつつ永眠しました。
彼の遺した音楽は、ボサノヴァ、ジャズ、フュージョンといったジャンルの境界を軽々と越え、パーカッションという楽器の表現力の豊かさを示す好例として、今なお多くの音楽愛好家や後進のミュージシャンたちに影響を与え続けています。
主なディスコグラフィ
リーダー・アルバム
Dom Um (1964年)
『ドン・ウン・ロマン』 - Dom Um Romão (1972年)
Spirit of the Times (1973年)
Braun-Blek-Blu (1974年)
Hotmosphere (1977年)
Om (1978年)
『パーカッション・プロファイルズ』 - Percussion Profiles (1978年) ※共同名義
Samba de Rua (1990年)
Saudades (1993年)
Rhythm Traveller (1999年)
『レイク・オブ・パーサヴィアンス』 - Lake of Perseverance (2001年)
Nu Jazz meets Brazil (2002年)
主な参加アルバム
キャノンボール・アダレイ: 『キャノンボールズ・ボサ・ノヴァ』 (1962年)
ハービー・マン: 『ドゥ・ザ・ボサ・ノヴァ』 (1962年) 他
ジョルジ・ベン: 『サンバ・エスケーマ・ノーヴォ』 (1963年)
フローラ・プリム: Flora é M.P.M. (1964年)
アストラッド・ジルベルト: 『ルック・トゥ・ザ・レインボウ』 (1966年) 他
フランク・シナトラ&アントニオ・カルロス・ジョビン: 『シナトラ&ジョビン』 (1967年)
ウェザー・リポート: 『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』 (1972年) 他
ロン・カーター: 『イエロー&グリーン』 (1976年)
* ロバート・パーマー: 『HEAVY NOVA』 (1988年)
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