ナイオ・マーシュ

ナイオ・マーシュの生涯と業績

ナイオ・マーシュ（Dame Edith Ngaio Marsh、DBE）は、1895年4月23日にニュージーランドのクライストチャーチで誕生した、著名な劇作家、推理作家、演出家です。彼女の名前「ナイオ」は、ニュージーランド特有の花木を指すマオリ語由来とされています。家族は演劇に深く関わりがあり、父エドワードはパン職人で、母方の祖父は初期開拓民の一人でした。このような環境で育ったマーシュは、演劇に早くから親しむこととなりました。彼女の出生届が遅れたため、正確な誕生日は不明とされています。

クライストチャーチのフェンダルトン地区で10歳まで過ごした後、家族はカシミア地区へ移り、マーシュはその後の人生の大半をその家で生活しました。彼女は名門のセント・マーガレッズ・カレッジを卒業後、カンタベリー・カレッジ美術学院で、絵画や演劇、ダンスを学びました。美術協会に加わり、当初は画家としての道を志していましたが、大学在学中に書いた戯曲「A Terrible Romantic Drama」が劇団の主宰者の目に留まり、女優として際立つキャリアをスタートさせました。彼女は劇団での活動を通じて、演出家としても力を発揮しました。

1928年にロンドンに渡り、室内装飾の事業を行うために拠点を移しましたが、母親の病気を受けてニュージーランドに帰国。母の死後は17年にわたり父親の面倒を見ました。ロンドン滞在中の1931年から1932年にかけて、推理小説『アレン警部登場』を執筆し、1934年に出版して作家デビューを果たします。この作品は、後に続くアレン警部シリーズの第一作であり、マーシュの代名詞となります。

彼女は以降、1982年までに32の長編推理小説を執筆し、その作品は広く評価されました。特に「Artists in Crime」などの長編は、彼女の独特なキャラクターと緻密なストーリー展開で人気を博しました。また、旅行好きな彼女は、ヨーロッパ各地を訪れ、その体験を元に旅行記を執筆しています。1962年にはカンタベリー大学から名誉文学博士号を授与され、1967年には大英帝国勲章（DBE）を受け、デームの称号を得るなど、その業績は高く評価されました。

作家活動の傍ら、マーシュは演劇の分野にも力を入れ、ラジオやテレビ向けの脚本やミュージカルの演出を手がけ、戯曲を7本執筆しました。彼女が演出を担当した1942年から1969年の間は、カンタベリー大学ドラマ協会の黄金期と称され、その活動は地方公演やオーストラリアツアーにまで及びました。1972年には、彼女の功績を称えてカンタベリー大学内に「ナイオ・マーシュ劇場」が開館され、開場の際には自ら演出したシェイクスピアの『十二夜』が上演されました。

マーシュは独身を貫き、カシミア地区の家に77年間住み続けました。彼女のその家は現在博物館として一般公開されています。加えて、彼女の著作に関する資料はニュージーランド国立図書館やクライストチャーチ市立図書館、カンタベリー大学の図書館に保管されています。

彼女の晩年には、32冊目となる推理小説『Light Thickens』を執筆し、その一週間後に自宅で静かに息を引き取りました。マーシュの業績は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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