ナシ族

ナシ族：雲南省の山間地帯に息づく独特の文化

中国南西部、雲南省と四川省にまたがる山間地帯に暮らすナシ族は、独自の文化と社会構造を持つ少数民族です。標高1000～2000メートルに位置する山間丘陵地帯や盆地を主な居住地とし、麗江市玉竜ナシ族自治県などに多くのナシ族の人々が生活しています。2000年時点での中国国内の人口は約30万8千人でした。

母系社会と独特の伝統

ナシ族の中でも、モソ族として知られる集団は、特筆すべき母系社会を形成しています。家長は女性であり、重要な決定は女性が行う伝統が根強く残っています。かつては「祖母部屋」と呼ばれる、最年長の女性が住む部屋が家の中心的な役割を果たし、先祖の祭壇もそこに置かれていました。現在でも、古い家屋にはこの部屋を見ることができます。

ナシ族の宗教観は、自然崇拝を基盤としており、チベット[[仏教]]の影響も強く受けています。麗江の町々では、小川の中州に、生命や先祖を祀る祭壇が色鮮やかに設けられている光景を見ることができます。

トンパ文字：生きた象形文字

ナシ族は、独自の文字体系である「トンパ文字」を持っています。約1400の象形文字から成るこの文字は、宗教儀式において使用され、原始仏教との関連性も指摘されています。ユネスコの世界の記憶にも登録されており、世界で唯一現存する生きた象形文字として貴重な文化的遺産となっています。

ナシ語はチベット・ビルマ語族に属し、イ族やリス族と近縁と言われています。しかし、漢族との交流も多く、ナシ族の多くは中国語も流暢に話します。トンパ文字以外にも、表音文字やラテン文字も用いられてきましたが、現在ではトンパ文字が宗教儀式を中心に使用されています。麗江にある東巴宮（資料館）には、トンパ文字で書かれた経典や、アリリ（踊り）の楽譜などが保存されています。

歴史と社会構造

ナシ族の歴史は古く、晋代の摩沙夷や唐代の磨些蛮にその起源を求める説があります。金沙江流域で栄えたナシ族は、唐代には吐蕃や南詔の支配下に入り、元・明時代にはナシ族の首領が土司として中国王朝から間接的に支配を受けました。明代には木氏が麗江府土官に任命され、清代には改土帰流によって中国政府の直接支配下に入りました。

モソ族は、現在ではナシ族の一部として分類されていますが、ナシ族よりも強い母系社会を形成しており、男性には相続権がありません。

トンパ文化：自然崇拝と民間信仰

ナシ族の文化の中核をなすのが、トンパ文化です。7世紀頃に成立したとされるトンパ教は、2000を超える神々を祀る自然崇拝に基づいた民間信仰であり、チベット[[仏教]]の影響も見られますが、組織化された寺院や信徒集団は存在しません。トンパと呼ばれるシャーマンによって、トンパ文字で書かれた経典が伝えられてきました。文化大革命の際に多くの経典が失われましたが、現在も約5000冊が現存しています。

ナシ族の文化は、その独特の社会構造、宗教観、そしてトンパ文字によって彩られています。現代社会の中で、彼らが独自の伝統をどのように継承し、発展させていくのか、注目に値します。

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