ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話

サンドロ・ボッティチェッリ作『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』

サンドロ・ボッティチェッリが1483年にテンペラで描いた『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』は、4枚の連作絵画の最初の作品です。元々はフィレンツェのプッチ家のコレクションにありましたが、1868年に売却され、現在はマドリードのプラド美術館に展示されています。この連作は、アントニオ・プッチが息子の結婚を祝うために依頼したもので、結婚式の装飾として用いられました。

制作の背景

この連作の制作には、ボッティチェッリの工房も関わっています。ボッティチェッリ自身が全体の意匠や主要な人物像を担当し、助手のバルトロメオ・ディ・ジョヴァンニとヤコポ・デル・セッライオが制作の一部を担いました。特に最初の3枚はバルトロメオ・ディ・ジョヴァンニが、4枚目はヤコポ・デル・セッライオが主に担当したとされています。

これらの絵画は、1868年までプッチ家の宮殿に飾られていましたが、その後売却され、最初の3枚はプラド美術館に、最後の1枚は一時的にイギリスのコレクションに所蔵された後、現在はプッチ宮に戻っています。

作品の主題

この連作の主題は、ジョヴァンニ・ボッカッチョの『デカメロン』に収録された物語「ナスタージョ・デリ・オネスティの物語」に基づいています。この物語は、失恋した主人公ナスタージョが、女性の愛を得るために恐ろしい幻影を利用するというものです。

『第一話』では、物語の舞台となるラヴェンナ近郊の松林が描かれています。失恋の悲しみに暮れるナスタージョは、友人に勧められて町を離れます。画面左手には、赤いテントの中で友人と別れを告げるナスタージョが描かれています。次に、画面前景の左側で一人悲しむナスタージョが現れ、森の中を彷徨います。その右側では、馬に乗った騎士が半裸の女性を追う姿を目撃します。女性を助けようとするナスタージョは、犬を追い払おうとしますが、犬は女性に追いつき、噛み倒してしまいます。

絵画の特徴

この作品は、一つの画面内に時間経過を伴う複数の場面を描く「異時同図」という中世後期の技法を用いています。ナスタージョの姿が3箇所に描かれているのがその例です。また、背景の木々が格子状に配置され、海景と組み合わさることで、奥行きのある空間が表現されています。細身で優雅な人物像や、ドラマチックな物語展開は、寓話的な要素と現実的な描写を巧みに融合させています。

連作の構成

連作は、『第一話』で描かれた恐ろしい光景の続きを描いていきます。『第二話』では、内臓を食われた女性が再び騎士に追われる様子が描かれます。『第三話』では、ナスタージョがこの幻影を利用して、恋心を抱く女性の気持ちを変えようとします。そして、『第四話』で、女性はナスタージョと結婚することになります。

ギャラリー

脚注

参考文献

『プラド美術館ガイドブック』、プラド美術館、2016年刊行　ISBN 978-84-8480-353-9
京谷啓徳『もっと知りたいボッティチェッリ　生涯と作品』、東京美術、2009年刊行、ISBN 978-4-8087-0860-3
杉浦明平・鈴木杜幾子『カンヴァス世界の大画家4　ボッティチェㇽリ』、中央公論社、1982年刊行 ISBN 978-4124018943

外部リンク

プラド美術館公式サイト、ボッティチェッリ『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』(英語)
プラド美術館公式サイト、ボッティチェッリ『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第二話』(英語)
プラド美術館公式サイト、ボッティチェッリ『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第三話』(英語)

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