ナタリー・デセイ

ナタリー・デセイ（Natalie Dessay）は、フランスの声楽家であり、リリック・ソプラノおよびコロラトゥーラ・ソプラノとして、幅広いレパートリーを誇ります。歌唱力と美貌を兼ね備えた、現代最高のオペラ歌手の一人として知られています。

経歴

リヨンで生まれたデセイは、少女時代に女優を志していましたが、その才能を見出され声楽の道へ進みます。ボルドー国立音楽院で学び、トゥールーズの教会で聖歌隊員として経験を積みました。その後、パリ・オペラ座の声楽教室で研鑽を積み、フランス・テレコム主催の声楽コンクール「新しい声」やウィーン国立歌劇場の「モーツァルト国際コンクール」で優勝を果たし、その才能を広く認められるようになりました。

オペラ歌手としてのキャリアは、『劇場支配人』のヘルツ夫人役や『ツァイーデ』のツェルビネッタ役などで幕を開けました。リヨン歌劇場やオペラ・バスティーユ、ジュネーヴ歌劇場など、数々の劇場で主要な役を演じ、着実にキャリアを積み重ねていきます。

1992年には、オペラ・バスティーユで『ホフマン物語』のオランピア役を演じ、これが彼女の飛躍のきっかけとなりました。ロマン・ポランスキーの演出は不評でしたが、デセイの演技は高く評価され、その後も同役で再演を重ね、オペラ座での凱旋公演も果たしています。

ウィーン国立歌劇場では、『後宮からの誘拐』のブロンデ役で出演し、その後『ホフマン物語』のドイツ語版公演で代役を務めました。1993年のオランピア役は、ウィーンの聴衆を魅了し、プラシド・ドミンゴも彼女の才能を絶賛しました。カルロス・クライバー指揮による『ばらの騎士』への出演も計画されましたが、これは実現しませんでした。

1994年には、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビューし、『アラベラ』のフィアカーミリ役を演じました。その後も同劇場で、『ツェルビネッタ』役や『オランピア』役で再登場を果たし、国際的な評価を確立しました。

エクサンプロヴァンス音楽祭では、初めて『魔笛』の「夜の女王」役に挑戦しました。当初は悪役を演じることに抵抗がありましたが、演出家の説得を受け、役柄に対する理解を深め、見事に演じきりました。その後も、この役を「これで最後」と言いながら、何度も演じています。

声の不調と復活

2001年から2002年にかけて、声の不調に悩まされ、いくつかの公演を降板せざるを得なくなりました。声帯の手術を受け、2年間の休養を経て、2003年にパリで復活公演を行い、大成功を収めました。その後、メトロポリタン歌劇場にも復帰し、再び舞台で輝きを放ちました。

レパートリーと引退

デセイは、ドイツ・オペラだけでなく、イタリア・オペラやフランス・オペラなど、幅広いレパートリーを持っています。『後宮からの誘拐』のブロンデ役や『ナクソス島のアリアドネ』のツェルビネッタ役は、彼女の代表的な役柄として知られています。しかし、故障の再発により、レパートリーの見直しを余儀なくされ、いくつかの役柄を諦めざるを得なくなりました。

近年は、声域や声質に合った役柄の限界もあり、2013年にオペラからの引退を発表しました。その後は、歌曲の演奏を中心に活動しており、シャニ・ディリュカのピアノ・アルバムでは、コール・ポーターの楽曲を披露するなど、新たな音楽の可能性を追求しています。

ディスコグラフィー

CD録音は、EMI・ヴァージン・クラシックスから継続的にリリースされています。デビュー・アルバムは、モーツァルトのコンサート・アリア集です。フランス・オペラのアリア集や『ヴォカリーズ』など、彼女の持ち役を多数収録したアルバムもリリースされています。また、バッハのカンタータやブラームスの『ドイツ・レクイエム』のソリストを務めたCDもあります。

吹き替え

アニメ映画の吹き替えにも挑戦しており、『Rio 2』のフランス語版や『ディリリとパリの時間旅行』で、その才能を発揮しています。

オペラ界を彩ったディーヴァ、ナタリー・デセイ。その歌声は、これからも多くの人々の心を魅了し続けるでしょう。

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