ナチュラルキラーT細胞

ナチュラルキラーT細胞（NKT細胞）

ナチュラルキラーT細胞（NKT細胞）は、免疫システムを担うリンパ球の一種であるT細胞の特殊な集団です。その特徴は、通常のT細胞が持つ機能に加え、ナチュラルキラー（NK）細胞に類似した性質も合わせ持つ点にあります。ヒトの末梢血中に存在するT細胞のうち、NKT細胞が占める割合はわずか0.1%程度と少数ですが、多様な免疫応答において重要な役割を担っています。

命名の由来

当初、「NK T細胞」という呼称は、マウスにおいてNK細胞が持つとされるマーカーであるNK1.1（CD161）を発現するT細胞群を指すために使われました。しかし、研究が進むにつれて、現在ではこの名称はより広範な細胞集団を指すようになりました。具体的には、T細胞受容体（TCR）のVα鎖に共通する構造を持つ「インバリアントTCR」を持つものや、NK細胞関連のマーカーを発現するものを含め、特定の抗原提示分子であるCD1dによって提示される脂質や糖脂質を認識するT細胞集団全体を「NKT細胞」と総称するのが一般的です。このCD1dを介した抗原認識の特性から、「CD1d拘束性T細胞」とも呼ばれます。

細胞表面の分子と認識機構

NKT細胞はT細胞の一員として、抗原を認識するためのTCR（多くはαβTCR）を発現しています。しかし、それに加えてNK1.1などのNK細胞に特徴的な分子マーカーも複数発現していることが、通常のT細胞との違いです。NKT細胞が認識する抗原は、従来のT細胞が認識するようなペプチド断片とは異なり、主に脂質や糖脂質です。これらの脂質抗原は、細胞表面に存在するCD1ファミリー分子、特にCD1dという分子によって細胞表面に提示されます。NKT細胞はこのCD1dに結合した脂質や糖脂質をTCRで認識します。結核菌のような微生物に由来する特定の糖脂質を認識することも知られており、感染免疫においても役割を果たします。

NKT細胞の中には、TCRの多様性が極めて限られている「インバリアントNKT細胞」（1型NKT細胞）と、それ以外のCD1d拘束性T細胞（2型NKT細胞）が存在します。また、NKT細胞はNK1.1だけでなく、CD4やCD8といったヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞のマーカー、あるいはCD16やCD56といったNK細胞のマーカーを、細胞の種類によって陽性であったり陰性であったり多様な組み合わせで発現します。グランザイムという細胞傷害性物質を産生する能力も持っています。特に1型NKT細胞はPLZFという転写因子を多く発現しており、その分化にはこの因子が必須であることが分かっています。

主な分類

NKT細胞は、主にそのTCRの構造や機能的な特徴に基づいていくつかのサブタイプに分けられます。

インバリアントNKT細胞（iNKT細胞/1型NKT細胞）: 最もよく研究されているNKT細胞集団です。特徴的なインバリアントTCRα鎖を持つことからこの名があります。ヒトとマウスの間で共通の性質を持ち、幅広い免疫応答に関与しています。研究からは、発生初期における微生物との接触が、iNKT細胞の適切な発達に影響を与え、その不足が免疫系の異常を引き起こす可能性が示唆されています。
記憶免疫様NKT細胞: 比較的新しく発見されたNKT細胞の亜群で、免疫記憶のような機能を持つことが報告されています。2014年に日本の理化学研究所の研究チームによってその存在が明らかにされました。この細胞は、CD1dを発現する細胞からの刺激を受けることで記憶細胞としての性質を獲得すると考えられています。特に肺においては、9ヶ月以上にわたって長期にわたり存在し続けることが観察されています。記憶免疫様NKT細胞は、KLRG1、接着分子CD49d、そして細胞傷害に関わるグランザイムAなどの分子を発現しています。また、NK細胞やマクロファージの活性化、T細胞の分化といった自然免疫や獲得免疫の調節に関わるサイトカインであるインターフェロン-γ（IFN-γ）を大量に産生する能力が高いことも特徴です。この細胞が免疫記憶を獲得できるという発見は、NKT細胞が長期にわたる抗腫瘍効果を示しうるメカニズムの一つであると推測されています。

機能

NKT細胞は活性化されると、非常に迅速かつ大量に様々なサイトカインやケモカインを産生・分泌する能力に優れています。特に、IFN-γ（インターフェロンガンマ）、IL-4（インターロイキン4）、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子（GM-CSF）といった重要な免疫調節分子を大量に放出することが知られています。これらの他にも、IL-2、IL-13、IL-17、IL-21、TNF-α（腫瘍壊死因子アルファ）など、多岐にわたるサイトカインを産生し、他の免疫細胞の機能に影響を与えます。この迅速なサイトカイン分泌によって、NKT細胞は免疫応答を活性化させたり、あるいは抑制したりと、免疫システムのバランスを保つ上で重要な役割を果たします。

分化

NKT細胞は、通常のT細胞と同様に、体の免疫器官である胸腺で成熟・分化の過程を経ます。多くのNKT細胞は、胸腺内でCD4とCD8の両方の表面分子を発現しているダブルポジティブ（DP）段階の胸腺細胞から分化しますが、一部はCD4もCD8も発現していないダブルネガティブ（DN）段階の細胞からも分化することが確認されています。

医学的意義と将来性

NKT細胞の機能不全や数の減少は、様々な疾患の発症や進行に関与することが研究により示されています。例えば、自己免疫疾患や癌といった病態との関連が指摘されており、NKT細胞が免疫恒常性の維持に果たす役割の重要性が強調されています。近年では、ヒトの喘息の病態進行にもNKT細胞が関わっている可能性が報告されています。NKT細胞が持つ、迅速かつ強力に免疫調節性のサイトカインを分泌する能力は、これらの疾患に対する新たな治療法開発につながる可能性を秘めています。免疫応答をコントロールする手段として、NKT細胞を標的としたり、あるいは利用したりする臨床応用が期待されています。

もう一度検索