ナツエビネ

ナツエビネについて

ナツエビネ（夏海老根、学名：Calanthe puberula）は、ラン科のエビネ属に属する多年草です。主に中国南部、台湾、朝鮮半島（済州島）や日本に見られ、特に日本では本州、四国、九州で広く分布しています。ナツエビネは湿った落葉樹林下や渓谷、沢の周辺で生育することが多く、その環境に適応しています。

特徴

ナツエビネの特徴は、その偽球茎が球形で、葉は3～5枚が束になって生えます。葉の長さは10～30cm、幅は3～6cmほどあり、狭長な楕円形をしています。葉の先端は鋭くとがり、表面には縦じわが多く見られます。花は7月から8月にかけて咲き、花茎は20～40cmの高さで立ち上がり、下から順に開花します。淡紫色の花が10～20個、総状に並びます。花の構造については、苞は1～2cmの披針形で、萼片は背萼片が狭卵形、側萼片が斜卵形となり、いずれも先端がとがります。側花弁は萼片より少し短く、唇弁は心状広卵形で、3つの深い裂片に分かれています。

生育環境

ナツエビネはやや湿った環境を好むため、日本国内では水はけの良い土壌がある場所、特に落葉樹の林下などで見ることができます。このような環境では、植物が健全に育つための条件が整っていますが、逆に高温や湿度不足に弱いため、長期間にわたって健康に育て続けることは難しいとされています。日本の都市部では、特に関東以南の平坦地において高温障害が発生しやすく、結果として落蕾してしまうこともあります。

園芸における利用

ナツエビネは園芸店でも販売されていますが、その栽培が難しいため、一般的には一時的な栽培にとどまることが多いです。高温に弱いため、十分な手入れが求められ、一部のエビネ類の中では園芸的評価が低いです。また、他種との交配が可能ではありますが、交雑個体は稔性が低くなり、育種の素材としてはあまり利用されていません。これらの要因から、栽培は一時的な消費にとどまり、自然界から野生の個体が流通している状況です。

下位分類

ナツエビネには、オクシリエビネ（Calanthe puberula var. okushirensis）という変種があり、主に北海道の奥尻島や青森県西部に分布しています。オクシリエビネは葉の裏に短毛があり、かつての分類ではCalanthe reflexa Maxim. var. okushirensisと考えられていたことがあります。

保全状況

ナツエビネは環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧II類（VU）に指定されており、近年数が減少しています。特にその生育環境が徐々に失われつつあるため、保全活動が求められています。

参考文献

• - 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本I単子葉類』（1982年 平凡社）
• - 林弥栄編『山溪カラー名鑑 日本の野草』（1983年 山と溪谷社）
• - 高橋勝雄『山溪名前図鑑 野草の名前 夏』（2003年 山と溪谷社）

外部リンク

• - BG Plants 和名−学名インデックス
• - ナツエビネの標本（千葉大学附属図書館）
• - 日本のレッドデータ検索システム

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