ムハンマド・ジア＝ウル＝ハク

ムハンマド・ジア＝ウル＝ハク：激動のパキスタンを統治した軍人・政治家

ムハンマド・ジア＝ウル＝ハク（1924年8月12日 - 1988年8月17日）は、パキスタンの軍人、政治家であり、第6代大統領として1978年から1988年まで10年間、パキスタンを統治しました。

生い立ちと軍歴

ジアは、英領インドのジャランダル（現インド領）で生まれ、デヘラードゥーンのインド陸軍士官学校を卒業後、第二次世界大戦では英印軍として従軍しました。インド・パキスタン分離独立後はパキスタン陸軍に入隊し、ヨルダン内戦ではヨルダン軍を支援して活躍しました。

1976年にはズルフィカール・アリー・ブットー首相により陸軍参謀総長に任命され、軍部での地位を確立しました。

クーデターと大統領就任

1977年、ジアは「フェアプレー作戦」と名付けられた軍事クーデターを実行し、ブットー首相を失脚させました。その後、戒厳令を布き、1年以上の事実上の支配者として君臨し、1978年9月には正式に大統領に就任しました。

ジア政権の政策

大統領就任後、ジアはパキスタンのイスラーム化を推進し、シャリーア法廷の設置や宗教的な法律の強化を行いました。また、核兵器開発も積極的に進め、工業化や規制緩和を通じて経済の改善を図りました。外交面では、ソ連のアフガン侵攻に対して反ソビエトを掲げ、ムジャーヒディーンを支援。アメリカとの関係を強化し、イスラム諸国におけるパキスタンの地位を確立しました。

ジア政権下では、1985年に総選挙が実施され、ムハンマド・ハーン・ジュネージョーが首相に任命されました。しかし、大統領権限が強化されたことで、選挙は実質的に意味のないものとなり、ジアの独裁体制は継続されました。その後、経済の悪化を理由にジュネージョー首相を罷免し、再度総選挙を行うこととしましたが、1988年8月、航空機事故により死亡しました。

ジア政権に対する評価

ジアに対する評価は、肯定的側面と否定的側面の両面があります。肯定的な評価としては、ソ連のアフガン侵攻を阻止し、イスラーム主義者からの支持を得ていることが挙げられます。一方で、独裁政治や言論統制、宗教的な差別、民主主義の失墜などが批判されています。これらの評価を合わせて、彼の政治思想は「ジア主義」と呼ばれています。

生い立ちと家族

1924年8月12日、ジアは英領インドのパンジャーブ州ジャランダルで、軍人の父ムハンマド・アクバル・アリの元に生まれました。家族はパンジャーブ人のムスリムで、アレイン族に属していました。幼少期にはコーランを学び、その後、デリーの名門セント・スティーブンズ・カレッジで歴史学の学位を取得し、デヘラードゥーンのインド陸軍士官学校を卒業しました。

1950年8月10日、いとこのシャフィーク・ジアと結婚し、2人の息子と3人の娘をもうけました。

軍人としての経歴

ジアは、1943年5月12日に英領インド陸軍に入隊し、第13槍騎兵連隊に配属されました。第二次世界大戦中はビルマやマレー作戦に従軍。1947年のインド独立後は、ウッタル・プラデーシュ州で難民輸送の護衛官を務めました。1962年から1964年までアメリカで訓練を受け、帰国後はクエッタの指揮幕僚大学で指揮幕僚長に就任しました。

ヨルダン内戦での活躍

1967年から1970年までヨルダンに駐在し、パキスタンのヨルダン軍訓練任務のトップを務めました。「黒い九月事件」では、パレスチナ解放機構（PLO）に対抗するヨルダン軍を指揮し、シリアの軍事力を評価するために派遣されるなど、重要な役割を果たしました。

陸軍参謀総長への昇進

1975年には中将に昇進し、1976年3月1日にはズルフィカール・アリー・ブットー首相によって陸軍参謀総長に任命されました。この際、ブットーは年功序列を無視して、若いジアを抜擢しました。

戒厳司令官としての台頭

ブットー政権に対する不満が高まる中、1977年1月8日に複数の野党が結集し、パキスタン国民同盟（PNA）が結成されました。PNAは不正選挙を主張し、全国的なストライキやデモが行われました。ブットーは主要都市に戒厳令を敷きましたが、政治的混乱は収まりませんでした。

ジアは、この混乱に乗じて軍事クーデターを計画し、1977年7月5日未明に実行しました。ブットー首相を逮捕し、戒厳令を布告しました。ジアは当初、90日以内に選挙を実施すると約束しましたが、後に延期を決定しました。また、ブットーを裁判にかけ、1979年4月4日に絞首刑にしました。この措置は国際社会から非難を浴びました。

大統領としての統治（1978年 - 1988年）

1978年9月16日、ジアは大統領に就任しました。大統領就任後、ジアは政治構造の変化に着手し、マジュリス＝エ＝ショーラ（協議評議会）を設置しました。これは大統領への諮問機関であり、実質的な決定権はありませんでした。1984年には国民投票を実施し、大統領としての地位を強化しました。1985年には議会選挙を実施しましたが、ジアは大統領権限を強化する憲法修正を行い、実質的な権力を維持しました。

経済政策では、経済発展よりも政策を優先し、技術官僚に経済運営を委ねました。アメリカとの関係を強化し、ソ連のアフガン侵攻に対抗するため、アメリカからの軍事支援を受けました。外交面では、イラン・イラク戦争で中立を維持しつつ、イランと緊密な関係を築きました。

核兵器開発と対外関係

ジアは、ブットー政権下で開始された核兵器開発計画を軍の管理下に置き、積極的に推進しました。パキスタンは、1983年に初の核実験を実施し、核保有国となりました。国際的な圧力に対抗するため、核兵器開発をインドの核開発計画と関連付け、核拡散防止条約（NPT）への調印を拒否しました。また、「核の曖昧さ」政策を採用し、核兵器開発の事実を意図的に隠蔽しました。

イスラーム化政策

ジア政権の主要な政策は「イスラーム化」でした。ジアは「ニザーム＝エ＝ムスタファ（預言者の支配）」の施行を約束し、シャリーア法廷の設置、コーランとスンナに基づく法律の制定を推進しました。また、フドゥード規定を導入し、イスラム法に基づく刑罰を導入しました。

このイスラーム化政策は、女性の権利を制限し、人権侵害を招いたとして批判されました。また、ザカート・ウシュル条例や冒涜禁止条例などの宗教的な法律は、社会の分断や不寛容を助長したと指摘されています。

ジュネージョー首相の解任と新たな選挙

時が経つにつれ、ジアとジュネージョー首相との間に意見の不一致が起こり始めました。ソ連のアフガン撤退に関連したジュネーブ協定を巡る対立や、オジュリ駐屯地爆発事故の責任問題などが原因でした。1988年5月29日、ジアはジュネージョー首相を罷免し、議会を解散しました。そして、90日以内に新たな選挙を行うと約束しました。

事故死

1988年8月17日、ジアはバハワルプルからイスラマバードへ移動中に航空機事故で死亡しました。この事故は多くの陰謀説を生みましたが、調査委員会は「機内での妨害行為」が原因であると結論づけました。ジアの遺体はイスラマバードのファイサル・モスクに埋葬されました。

後世への影響と評価

ジアの死後も、彼の政策はパキスタン社会に大きな影響を与え続けています。彼の政治思想である「ジア主義」は、イスラム国家の理念を支持し、パキスタンの政治において重要な役割を果たしています。ジアの評価は賛否両論ありますが、彼の統治はパキスタンの歴史において大きな転換点であったことは間違いありません。

彼の政策は、民主主義を弱体化させ、宗教的不寛容を助長したと非難される一方、ソ連のアフガン侵攻を阻止した功績も評価されています。また、ナワーズ・シャリーフの政治的キャリアを形成した人物としても知られています。

ジアは、パキスタンの歴史上、最も議論を呼ぶ人物の一人であり、彼の遺産は今もなお、多くの議論を巻き起こしています。

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