ナーダ

1980年代初頭、日本の音楽シーンに彗星のごとく現れたシンガー、高樹澪が1982年6月21日に世に送り出した最初のアルバムが『ナーダ』である。キャニオンレコードよりリリースされたこの作品は、当時の彼女への期待の高さを示すかのように、「期待の新星MIO、遂に出現!!世紀末へのファースト・アルバム」という力強いキャッチコピーが帯に踊っていた。デビューアルバムにして、その後のキャリアを決定づける代表曲を収録した重要な作品となっている。

アルバムはLPレコードの構成を踏襲しており、全9曲がSIDE 1とSIDE 2に分かれて収録されている。サウンドプロデューサーはチト河内が務め、大半の楽曲の編曲も彼が手がけている。SIDE 1には、アダモ作曲のシャンソンを岩谷時子が訳詞した「サン・トワ・マミー」や、いまなりあきよしの手による「雨の巴里」、竜真知子作詞、茂村泰彦作曲の「揺れてラプソディー」といった様々なテイストの楽曲が並ぶ。伊勢正三が作詞・作曲を手がけた「Noon Moon」、そしてチト河内自身が作詞・作曲したタイトル曲のひとつ「夢みるコラソン」も収録されている。

一方、SIDE 2ではさらに多彩な作家陣が集結している。桑田佳祐が作詞・作曲し、八木正生が編曲を担当した「恋の女のストーリィー」は、意外性のある組み合わせとして注目されるだろう。東海林良作詞、大野克夫作曲の「反抗－レジスタンス」も、著名なクリエイターによる楽曲だ。そして、このアルバムのハイライトであり、彼女の最大のヒット曲となった「ダンスはうまく踊れない」が収められている。この楽曲は井上陽水が作詞・作曲を手がけた名曲である。アルバムのラストを飾るのは、再びチト河内が作詞・作曲したタイトル曲「Nada」であり、この楽曲は6分を超える大作となっている。

アルバムのサウンドを支えているのは、当時の日本の音楽シーンを代表する凄腕ミュージシャンたちである。レコーディングには、チト河内（Drums, Sound Producer）、長岡道夫（Bass）、土方隆行（Electric Guitar）、谷康一（Acoustic Guitar）、山田秀俊（Keyboards）、金山功（Vibraphone）、石山実（Latin Percussion）、風間文彦（Accordion）、Jake-H-Concepcion（Alto Saxophone）、横田年昭（Flute）、角田隆（Lute）、トマト（Violin）、日色純一（Solo Violin）、前田昌利（Cello-Violin）といった豪華な顔ぶれが参加している。これらの実力派たちの卓越した演奏が、高樹澪の瑞々しい歌声に深みと彩りを与えている。

サウンドプロデュースは前述のチト河内が担当し、レコーディングエンジニアとして秋野賢一がミックスを手がけている。また、大輪茂雄がディレクション、イワタがクリエイティブディレクション、正水清己がアートディレクション、小野麻早が写真撮影を担当するなど、制作スタッフも充実しており、アルバム全体のクオリティを高めている。

『ナーダ』は、高樹澪のアーティストとしての第一歩を記した記念すべき作品である。収録された楽曲の多様性、参加ミュージシャンの質の高さは、彼女が単なるアイドルではなく、本格的なシンガーとして期待されていたことを示している。特に井上陽水作の「ダンスはうまく踊れない」のヒットは、彼女の存在を広く知らしめ、アルバム全体の価値を一層高めた。1982年という時代の空気感を反映しつつも、現在でも色褪せない魅力を持った楽曲群が収録されており、彼女の音楽性を理解する上で欠かせない一枚と言えるだろう。

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