ニコライ・ゴリツィン

ニコライ・ゴリツィン公爵：ロシア帝国最後の首相の生涯

ニコライ・ドミトリエヴィッチ・ゴリツィン公爵は、1850年、モスクワ近郊に生まれました。名門ゴリツィン家の一員として、彼は華麗なキャリアを歩むことになります。1871年、ツァールスコエ・セロー・リツェイ卒業後、内務省に入省。ポーランド地方への赴任を皮切りに、アルハンゲリスク副知事、内務省経済部副部長、アルハンゲリスク知事、カルーガ知事、そしてトヴェリ知事を歴任しました。地方行政における経験は、彼の政治的基盤を築き上げることになります。

1903年には、国家評議会議員に任命されます。高齢であったため会議中に居眠りをしていたという逸話も残されていますが、その政治的影響力は着実に増大していきました。1907年から1908年の飢饉では、赤十字全権として被災地での救済活動に尽力。また、第一次世界大戦下では、捕虜となったロシア兵支援委員会の委員長を務めるなど、社会貢献にも積極的に関わりました。皇后アレクサンドラからの信頼も厚く、彼女が中心となる慈善活動にも副委員長として参画していました。

1917年、ロシアは激動の時代を迎えます。1月、当時の首相アレクサンドル・トレポフが解任されると、ゴリツィンは後任に指名されました。就任を固辞する彼でしたが、皇帝ニコライ2世の強い意向により、首相の座に就くことになります。しかし、彼の首相在任期間はわずか2ヶ月足らずでした。

ゴリツィンは、皇帝の意向に反して教育大臣と軍需大臣を罷免するなど、大胆な政策を実行しました。しかし、二月革命の勃発によって、彼の内閣は急速に求心力を失っていきます。ペトログラードではドゥーマとペトログラード・ソヴィエトが実権を握り、ゴリツィン内閣は事実上機能不全に陥ります。皇帝による鎮圧命令にも関わらず、一部の軍隊が反乱側に寝返る事態が発生し、事態はさらに悪化しました。

3月11日、ゴリツィンは内閣総辞職を決定し、辞表を提出します。その後、逮捕され、ペトロパヴロフスク要塞に収監されました。その後、ロシア臨時政府が樹立され、彼の政治家としてのキャリアは終焉を迎えます。

十月革命後、釈放されたゴリツィンは、靴の修理や菜園の手入れで生計を立てました。しかし、OGPU（全ロシア統一国家政治局）による監視は続き、反革命容疑で二度逮捕されるなど、不安定な日々を送ります。そして1925年、三度目の逮捕後、「反革命運動を組織した」という容疑で処刑されました。2004年、彼の功績が認められ名誉回復されました。

1881年、彼はエフゲーニア・アンドレエーヴナ・フォン・グリュンベルクと結婚し、6人の子供をもうけました。妻子は革命後、フランスに亡命しました。彼の子供たちも、革命後の混乱の中で苦難の道を歩むこととなります。息子のドミトリーはアメリカ人女性と結婚し、ニコライはロシアで処刑され、アレクサンドルはフランスに亡命後、ピョートル大公の娘と結婚しています。娘のエフゲニー、ソフィア、オルガもそれぞれ異なる運命をたどりました。

ゴリツィン公爵の生涯は、ロシア帝国の興亡と深く結びついています。地方官僚としての地道なキャリアから、ロシア帝国最後の首相という重要な役割、そして革命後の悲劇的な最期まで、彼の波乱に満ちた人生は、激動の時代を生きた一人の貴族の物語として、今も人々の記憶に刻まれています。彼の経験は、20世紀初頭のロシアの歴史を理解する上で重要な手がかりとなります。

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