ニザーム王国

ハイダラーバード藩王国：インド・デカン地方のイスラーム王朝とその終焉

1724年から1948年まで、インドのデカン高原に栄えたハイダラーバード藩王国（ニザーム藩王国）は、その広大な領土と独特の歴史で知られています。ムガル帝国の衰退期に生まれたこのイスラーム王朝は、複雑な国際関係のなかで、独自の政治体制を築き上げ、やがてイギリス東インド会社の支配下に入りました。本稿では、その興亡と、近隣勢力との関係、イギリスとの複雑な外交、そしてインドへの併合に至るまでの歴史を詳細に見ていきます。

ゴールコンダ王国の遺産と王朝の成立

ハイダラーバードの起源は、デカン地方に勢力を誇ったゴールコンダ王国（クトゥブ・シャーヒー朝）に遡ります。1589年、ムハンマド・クリー・クトゥブ・シャーは新都を建設し、当初は寵姫バーグマティーの名にちなんで「バーグナガル」と名付けました。しかし、バーグマティーの改宗に伴い、都市名は「ハイダラーバード（ハイダルの都市）」と改められました。ムガル帝国のアウラングゼーブによるゴールコンダ王国の征服後、ハイダラーバードは帝国の支配下に置かれました。

1724年、ムガル帝国の宰相カマルッディーン・ハーンが、ムガル皇帝からの信頼を失い、デカン地方に独立国家を建設します。シャカル・ケーダーの戦いでムガル軍を破ったカマルッディーン・ハーンは、ニザームの称号を与えられ、アーサフ・ジャーヒー朝を開き、ハイダラーバードを拠点に勢力を拡大しました。

マラーター王国との抗争とイギリスとの関係

ニザーム王国は、勢力拡大を図るマラーター王国と激しく争いました。チャウタとサルデーシュムキー（マラーターがムガル帝国から課税権として得ていた権利）をめぐる争いは長く続き、マラーターとの二度にわたる激戦の後、ニザーム王国はマラーターの要求を受け入れることになりました。この時代、ニザーム王国は内部の改革にも取り組み、徴税システムの改善や反抗的な有力者の制圧に努めました。

18世紀半ば、フランスとイギリスの勢力争いが激しくなる中、ニザーム王国は当初はフランスと同盟関係を結びましたが、その後、イギリスと友好条約を結びました。マイソール王国との戦争では、イギリスとの関係は複雑に変化し、一時的には敵対しながらも、最終的には協力関係を築くことになります。この過程で、ニザーム王国は徐々にイギリスの保護下に置かれ、事実上の藩王国となりました。

藩王国化と近代化への試み

1798年、ニザーム王国とイギリスの間で軍事保護条約が締結され、ニザーム王国はイギリスの藩王国となりました。イギリス軍の駐留、フランス人将兵の解雇など、イギリスの影響力は強まりました。19世紀に入ると、ニザーム藩王国は近代化事業にも取り組みましたが、イギリスの干渉は常に影を落としていました。ニザーム鉄道の建設はその一例で、イギリスの意向によって高価な広軌を採用せざるを得ず、巨額の負債を抱えることになりました。

インドへの併合

1947年のインドとパキスタンの分離独立後、ハイダラーバード藩王国は一時的に独立を宣言しましたが、インド政府との関係が悪化し、1948年、インド軍の侵攻により併合されました。インド最大にして最後のイスラーム王朝は、こうしてその歴史の幕を閉じました。

まとめ

ハイダラーバード藩王国は、ムガル帝国の衰退期から、イギリスの台頭、そしてインド独立という激動の時代を生き抜いた王朝でした。マラーター王国との抗争、イギリスとの複雑な関係、近代化への試み、そして最終的なインドへの併合は、インド史における重要な一章を成しています。この王国の歴史は、政治、軍事、経済、そして文化的多様性に富んだデカン地方の複雑な歴史を理解する上で、欠かせないものです。

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