ニッケイ

ニッケイ（肉桂）とは

ニッケイ（Cinnamomum sieboldii）は、クスノキ科ニッケイ属に属する常緑高木です。ニッキ、ニッケとも呼ばれています。かつては中国南部や台湾が原産とされていましたが、近年の研究で日本にも自生種が存在することが確認され、日本固有種として扱われるようになっています。

ニッケイは、近縁種であるセイロンニッケイ（シナモン）やシナニッケイ（カシア）とは異なり、樹皮にはあまり香りがないため利用されません。しかし、根皮には特有の強い辛味と香りがあるため、古くから香辛料として利用されてきました。

ニッケイの歴史

江戸時代

ニッケイが日本に導入されたのは、江戸時代中期のことです。中国から渡来した桂皮（ニッケイの樹皮）の薬効が認識され、日本各地で栽培が始まりました。当初、栽培されていたニッケイは東南アジア原産の種と同一視されていましたが、沖縄や徳之島などに自生する野生種と同一であることが判明し、現在では日本固有種として認識されています。

江戸時代には、ニッケイは医薬品としても広く用いられました。当時の書物には、ニッケイの効能や利用法に関する記述が多数残っています。例えば、『古方薬品考』には、

邦産の者は辛味唯根に有り。故に根皮の桂と称す。今土佐薩州に出づる者は色紫赤色、紀州の産は赤色、凡そ味辛く甘く渋からざる者は用ふべし。和州城州諸州の産は下品なり。

と記されており、根皮が薬用として用いられていたこと、産地によって品質が異なっていたことがわかります。

ニッケイの根皮は、部位によって色、香り、味が異なり、それぞれ以下のように細かく分類されていました。

松葉：直径1cm以下の根からとった根皮
上縮：直径1～2cmの根からとった根皮
中縮：直径2～4cmの根からとった根皮
小巻：直径4～7cmの根からとった根皮
荒巻：直径7cm以上の根からとった根皮
さぐり皮：地上1mまでの幹皮

特に、土佐の縮々や紀州の小巻は良品として知られていました。

また、ニッケイの独特の辛味は、和菓子の風味付けにも利用されました。ニッキ水、ニッキ飴、八ツ橋、けせん団子（鹿児島の和菓子）、ニッキ餅、肉桂せんべいなどがその例です。

明治～大正時代

和歌山県では、大正時代初期までニッケイの生産が盛んで、根皮や樹皮がドイツやアメリカにも輸出されていました。しかし、この頃には国産ニッケイの精油含有量が中国産の桂皮に劣ると報告され、医薬品原料としての関心が薄れていきました。

昭和以降

昭和に入ると、ニッケイは医薬品原料としての需要を失い、生産量は大幅に減少しました。日本薬局方にも一時収載されていましたが、流通実績の低下により削除されました。現在では、食品原料としての流通もほとんどなくなり、ニッケイを使っていた和菓子の多くは、シナモンで代用されています。

ニッケイの品質

ニッケイの風味は、精油に含まれる成分によって決まります。特に、シンナムアルデヒドという成分が重要です。一般的に、ニッケイはセイロンニッケイやシナニッケイよりも精油含有量が少ないとされますが、精油含有量が多いニッケイも報告されており、品質は一概に劣るとは言えません。

根皮の精油には、シンナムアルデヒドのほか、クマリンやカンファーなどが含まれています。枝葉の精油には、リナロール、シンナムアルデヒド、ゲラニアール、1,8-シネオールなどが含まれています。

クマリンは、過剰摂取すると肝障害を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。

ニッケイの栽培

セイロンニッケイは樹皮を剥いで加工しますが、ニッケイは根を掘り起こす必要があるため、生産コストが高くなるという課題があります。また、苗を植えてから収穫できるようになるまで15年以上かかるため、長期的な計画に基づいた栽培が必要です。

ニッケイは、日本の食文化や薬文化に深く関わってきた植物です。現在では、その姿を見る機会は減ってしまいましたが、その歴史と価値を忘れないようにしたいものです。

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