ネオダーウィニズム

ネオダーウィニズム（新ダーウィン主義）とは

ネオダーウィニズム、または新ダーウィン主義は、生物学における進化の理論的枠組みであり、自然選択説と遺伝学を中核としています。現代進化論（総合説）とほぼ同義で扱われることも多く、生物の進化を理解する上で不可欠な概念です。

成立背景

19世紀：ダーウィニズムの課題

チャールズ・ダーウィンは『種の起源』で自然選択説を提唱しましたが、変異の起源については明確な説明を与えられませんでした。その結果、ラマルク説や定向進化説など、さまざまな代替理論が登場しました。ジョージ・ロマネスは、アルフレッド・ウォレスとアウグスト・ヴァイスマンによるラマルク説を否定した進化論を「ネオ・ダーウィニズム」と名付けました。ヴァイスマンは生殖質と体細胞を区別し、遺伝情報の流れは一方通行であると主張しました。この考え方は、後の分子生物学におけるセントラルドグマにつながる重要なものでしたが、当時は十分に理解されませんでした。

20世紀初頭：メンデル遺伝学の再発見

グレゴール・ヨハン・メンデルの研究が再発見され、遺伝の仕組みが明らかになりました。しかし、初期のメンデル学者は、遺伝が不連続であると考えたため、自然選択説とは相容れないものと見なしていました。生物測定学教室との論争も激化しましたが、トーマス・ハント・モーガンの研究により、変異が自然選択の対象となることが示されました。

集団遺伝学の成立

ロナルド・フィッシャー、J・B・S・ホールデン、シューアル・ライトといった集団遺伝学者の貢献が、総合説の基礎を築きました。フィッシャーは、メンデル遺伝学が自然選択と矛盾しないことを示し、ホールデンは自然選択が現実世界で作用することを示しました。ライトは遺伝的浮動を発見し、適応景観の概念を提唱しました。

現代的総合

テオドシウス・ドブジャンスキーは、集団遺伝学を自然の個体群に適用し、フィールド研究の重要性を強調しました。彼の著書『遺伝学と種の起源』は、集団遺伝学とフィールド研究のギャップを埋める重要な役割を果たしました。エドモンド・フォードは、自然選択が実際に働いていることを示す実験的フィールドワークを行い、生態遺伝学を創設しました。エルンスト・マイヤーは、地理的隔離が種分化に重要であることを強調し、生物学的種の概念を提唱しました。ジョージ・ゲイロード・シンプソンは、古生物学が総合説と両立することを示し、レッドヤード・ステビンズは植物における交雑と倍数性の影響を研究しました。ジュリアン・ハクスリーは、これらの研究をまとめ上げ、総合説を広めました。

現代総合説の概念

総合説は、実験的な遺伝学者、フィールドワーカー、そして古生物学者の間の隔たりを埋めました。その主要な概念は以下の通りです。

遺伝的メカニズム：進化的現象は、遺伝的メカニズムと自然界の観察結果によって説明できる。
漸進的な進化：進化は段階的に進み、小さな遺伝的変化が自然選択によって方向づけられる。
選択の重要性：自然選択が変化を説明する主要なメカニズムであり、小さな有利さでも長期間にわたって累積することで重要な影響を与える。
個体群の研究：自然個体群の遺伝的多様性が進化の鍵となる要因であり、生態学的要因も重要である。
小進化と大進化：小進化から大進化まで、歴史的な観察から進化の過程を推論できる。
種分化：個体群が生殖隔離されることで種が形成される。

改良と洗練

総合説は1940年代に成立しましたが、その後も改良と洗練が続けられました。動物行動学は行動研究に量的なアプローチを導入し、フィールドワークを洗練させました。W.D.ハミルトン、ジョン・メイナード＝スミス、G.C.ウィリアムズらは、適応主義的なアプローチを洗練させ、遺伝子中心の進化観を明確にしました。自己組織化理論や分子進化の中立説も総合説の一部として受け入れられています。

ユニバーサル・ダーウィニズム

進化の概念を生物進化以外の分野に拡大して考えるのがユニバーサル・ダーウィニズムです。ミーム学、進化経済学、進化心理学、進化人類学、進化認知論、進化言語学、進化ゲーム理論などがその例です。

新ダーウィン主義への疑義と批判

総合説や新ダーウィン主義は、多くの批判を受けています。リン・マーギュリスは共生の重要性を主張し、競争を強調する新ダーウィニズムを批判しました。今西錦司も共生の観点から批判を行いました。木村資生が提唱した中立説も自然選択説と対立する理論として議論を呼びましたが、現在は総合説の一部として受け入れられています。スティーヴン・ジェイ・グールドは適応主義を批判し、ブライアン・グッドウィンは発生的制約を重視しました。構造主義生物学の立場からは、突然変異や自然選択のみが進化の本質ではないと批判されています。

まとめ

ネオダーウィニズム（新ダーウィン主義）は、進化生物学の基礎となる重要な理論です。自然選択説と遺伝学を統合することで、生物の進化をより深く理解することができます。批判や疑義があるものの、現代でも多くの研究に影響を与え続けています。

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