ネストル・マルコーニ

ネストル・マルコーニ：タンゴ界の巨匠、その軌跡と音楽

ネストル・マルコーニ（Néstor Eude Marconi, 1942年6月15日生まれ）は、アルゼンチン・タンゴの世界において、バンドネオン奏者、作曲家、指揮者、編曲家として多大な影響を与えてきた人物です。ロサリオで生まれ、幼少期から音楽に親しみ、独学でバンドネオンの奏法を確立しました。

生い立ちと音楽への目覚め

1942年、アルゼンチンのサンタフェ州ロサリオで生まれたマルコーニは、11歳からピアノと作曲を学び始めました。音楽理論をアルトゥーロ・シュナイダーに、和声と対位法をルイス・ミリシに師事。父親から贈られたバンドネオンに魅了され、その奏法を独学で習得します。当時のラウレンス、トロイロ、ピアソラなどの楽団の演奏から大きな影響を受けました。

16歳でプロデビューを果たし、20歳でブエノスアイレスに移住。ホセ・バッソのオーケストラに参加し、中南米ツアーやカーニョカトルセでの演奏活動を通じて経験を積みました。

タンゴ界での活躍

1970年代に入ると、マルコーニはオラシオ・サルガン、アストル・ピアソラ、エンリケ・スタンポーニといったタンゴ界の著名人と肩を並べるようになります。自らバングアトリオを結成し、問題作と評された2枚のアルバムを発表。また、数多くの楽団でバンドネオン奏者、編曲家、指揮者として活躍しました。その驚異的なテクニックと自由な発想、ジャズの影響を受けた洗練されたリズム感は、一部の伝統的なタンゴ愛好家からは批判を受けることもありました。

1980年代には、世界を舞台に目覚ましい活動を展開。アストル・ピアソラ、オラシオ・フレールのプロジェクトに参加し、カルロス・コープスやアルゼンチン・バレエと共に、アメリカ、ヨーロッパ、日本など世界各地で共演しました。フランク・シナトラやドン・コスタのオーケストラとの共演も果たし、タンギッシモ公演では楽団指揮者として来日し、高い評価を得ました。フェルナンド・E・ソラナス監督の映画「スール その先は･･･愛」にも出演しています。

クラシック音楽との融合

1990年代以降、マルコーニはタンゴ界にとどまらず、クラシック音楽の分野でも活躍の場を広げます。バンドネオンとオーケストラのための作品のソリストとして、ピアソラの作品などを演奏。ブエノスアイレスのコロン劇場をはじめ、世界各地の劇場でオーケストラとの共演を果たしました。1997年には、ヨーヨー・マとの共演によるCD「Alma de Tango」を発表。1998年には、カルロス・サウラ監督の映画「タンゴ」に出演しました。

近年の活動

2000年代に入ると、ソリストとしての活動に加え、マルコーニ・トリオやヌエーボ・キンテート・レアルのメンバーとしても活動。アルゼンチン国立オーケストラ Juan de Dios Filibertoの常任指揮者も務めました。近年は、自身の作曲にも力を入れ、タンゴをベースにしながらも、洗練された独自の音楽世界を追求しています。2003年には、コロン劇場におけるタンゴフェスティバルで、バンドネオンとオーケストラのためのコンチェルト「Tangos Concertantes」を初演。2006年には、別府アルゲリッチ音楽祭に出演しました。

2010年代には、弟子である三浦一馬との共演「バンドネオン・ヒーローズ」で日本公演を実現させ、絶賛を浴びました。かつての「前衛派」的な色彩は薄れつつも、古今のタンゴを統合したかのような表現力豊かな音色で、聴衆を魅了し続けています。

音楽性

マルコーニの音楽は、ピリオドタンゴ、モダンタンゴ、コンテンポラリータンゴの要素を兼ね備え、その完成度の高い演奏は高く評価されています。ジャズ的なスイングや半音階和声などを巧みに取り入れ、伝統的なタンゴの枠にとらわれない自由な音楽性を展開しています。ピアソラの後継者と目されることもありますが、編曲においては近現代的な要素を抑え、各奏者のソロをバランス良く配分することで、明快なサウンドを追求しています。

ディスコグラフィー

マルコーニは、ミラー・スール、ミラン、JVCビクター、ソニー・クラシカル、ワーナーミュージックなど、数多くのレーベルからCDをリリースしています。また、ゲストとして参加しているCDも多数あり、そのことからも、音楽仲間からの信頼の厚さが伺えます。1990年作品、フェルナンド・E・ソラナス監督の映画「ラテンアメリカ　光と影の詩」オリジナルサウンドトラックでは、当初予定されていたピアソラの代役として、急遽マルコーニが演奏を担当しました。

ネストル・マルコーニは、タンゴ音楽の可能性を広げ、世界中の聴衆に感動を与え続けている、まさにタンゴ界の巨匠と言えるでしょう。

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