ネズッポ科

ネズッポ科 (Callionymidae)

ネズッポ科は、スズキ目ネズッポ亜目に属する魚類の分類群で、主にインド太平洋の熱帯海域に生息する小型の底生魚です。ネズミゴチやニシキテグリなど、少なくとも10属182種が知られています。近縁のイナカヌメリ科やハゼ科と類似した形態や行動を持つため、混同されることもあります。

分布と生態

ネズッポ科の魚類は、主にインド洋・西部太平洋の熱帯域に分布する海水魚です。海底付近で生活する底生魚であり、砂底や岩礁、暗礁を好みます。水深300メートルまでの浅海に生息し、甲殻類、蠕虫、小型の無脊椎動物などを捕食します。大きな胸鰭を推進に利用し、特に雄は縄張り意識が強いです。

繁殖

産卵期には、雄による入念な求愛行動が見られます。雄は鮮やかな鰭を誇示し、口を大きく開閉して雌にアピールします。求愛に成功すると、雄は胸鰭で雌を支えながら水面へ向かって上昇し、水面近くで卵と精子を放出、受精させます。受精卵は浮性卵で、プランクトンとして海流に乗って漂いながら孵化します。

形態

ネズッポ科の魚類は、「リトル・ドラゴン」とも呼ばれ、鮮やかな体色と複雑な斑紋を持つものが多いです。体は細長く、頭部は平たく縦扁し、口と眼は大きいです。側線は頭部・体部ともに発達しており、鱗はありません。体長は10 - 20センチメートルの種類が多いですが、中には30センチメートルに達する種類もいれば、2センチメートル程度の超小型種も存在します。多くの種類で性的二形が見られ、雄と雌で色彩が異なり、雄の方が大きな背鰭を持ちます。

すべての鰭は大きく、よく目立ちます。背鰭は前方の棘条部と後方の軟条部に分かれ、棘条は通常4本、軟条は6 - 11本です。臀鰭は4 - 10本の軟条で構成されます。雄の第1背鰭は大きく、鮮やかな模様で装飾されています。尾鰭の形状は截形または尖形です。

鰓の開口部は非常に狭く、頭部の上部に小さな孔として存在します。前鰓蓋骨には強靭なトゲがありますが、鰓蓋骨・下鰓蓋骨にはありません。この特徴は、近縁のイナカヌメリ科との鑑別点となります。一部の種類では、このトゲに毒があると報告されています。基蝶形骨・後側頭骨を欠き、鼻骨は一対存在し、後擬鎖骨は2個です。下尾骨は癒合して単一の骨板となります。

観賞魚として

ニシキテグリなどの種類は、観賞魚としてアクアリウムで飼育されることがあります。飼育には200リットル以上の大きなリーフアクアリウムが適しており、十分な量の岩を入れることが推奨されます。飼育下での産卵例も報告されていますが、十分な餌を確保するのが難しく、成長を見届けるのは容易ではありません。鮮やかな体色と目立つ鰭を持つため水族館でも人気がありますが、偏食の個体が多く、生きた餌しか食べない場合があるため飼育は難しいとされます。カイアシ類や端脚類などの天然の餌が豊富に生息できる環境を整えるか、アルテミアやアミなどの代替飼料を与える必要があります。

分類

ネズッポ科の分類は研究者によって異なり、Nelson（2016）の体系では20属188種、FishBaseでは17属197種が認められています。

代表的な属と種:

タンザクテグリ属 Anaora
タンザクテグリ Anaora tentaculata
トンガリヌメリ属 Bathycallionymus
トンガリヌメリ Bathycallionymus kaianus
Callionymus
ヨメゴチ属 Calliurichthys
イッポンテグリ属 Dactylopus
コブヌメリ属 Diplogrammus
Draculo
Eocallionymus
オオクチヌメリ属 Eleutherochir
ベニテグリ属 Foetorepus
コウワンテグリ属 Neosynchiropus
Paracallionymus
ハナビヌメリ属 Paradiplogrammus
Protogrammus
イトヒキヌメリ属 Pseudocalliurichthys
ネズッポ属 Repomucenus
ネズミゴチ Repomucenus richardsonii
ヒメテグリ属 Minysynchiropus
ハナヌメリ属 Synchiropus
ニシキテグリ Synchiropus splendidus
Tonlesapia
Tonlesapia tsukawakii

参考文献

Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fifth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2016年 ISBN 978-1-118-34233-6
岡村収・尼岡邦夫監修 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2

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