ネフティス

ネフティス（Nephthys）

ネフティスは、古代エジプト神話に登場する重要な女神の一柱であり、特に葬祭の領域を司るとされています。彼女は九柱神として知られるヘリオポリスのエンネアドに含まれています。彼女の神名「ネベトフゥト」は「城の女主人」を意味すると解釈されており、その名の通り、姉であるイシスが「玉座（王権）」を神格化した存在であるのに対し、ネフティスは「城」そのものを象徴する女神であると考えられています。

家族構成と特徴

ネフティスは、大地の神ゲブと天空の女神ヌトの間に生まれた四柱の神々のうち、末妹にあたります。彼女には、冥界の支配者オシリス、豊穣と魔術の女神イシス、そして混沌と戦争の神セトという三人の兄姉がいます。神話において、彼女は兄セトを配偶神としていますが、後述するように、別の兄であるオシリスへの秘めた思慕が重要な物語を生み出すことになります。

ネフティスの姿は、通常、人間の女性として描かれますが、腕に羽をつけた姿でも表現されることがあります。古風な装束をまとい、様々な種類の宝石をあしらった豪華なアクセサリーを身につけた姿で描かれるのが一般的です。彼女はまた、イシス、セルケト、ネイトといった他の女神たちと共に、カノポス壺に納められた故人の内臓を守護する、死者守護の四柱の女神の一柱としても崇められています。

神話における役割

ネフティスの物語は、オシリス、イシス、セトを中心とする神話と深く結びついています。夫はセトでしたが、ネフティスは長兄オシリスに心を惹かれていました。オシリスとの関係を求めるあまり、ネフティスは彼を酒で酔わせたり、姉イシスに変装したりといった様々な策を弄したと伝えられています。こうした試みの結果、ネフティスはオシリスとの間に子をもうけることに成功します。この、いわば不義の子こそが、ミイラづくりや墓地の守護を司る神、アヌビスです。

しかし、夫セトの激しい怒りを恐れたネフティスは、生まれたばかりのアヌビスをすぐに見捨ててしまいます。幸いにも、アヌビスは伯母にあたるイシスによって発見され、彼女に引き取られて養子として大切に育てられました。

夫セトが宿敵であるオシリスを殺害し、その身体をバラバラにしたという衝撃的な事件の後、姉妹であるネフティスとイシスの関係は、一見すれば複雑なものに思えます。しかし、この悲劇において、ネフティスはオシリスの遺体を探し求めるイシスに積極的に協力します。姉の探索に寄り添い、その手助けをしたのです。ネフティスはイシスと共にオシリスの遺体を一つに集め、その復活の儀式にも深く関わったとされています。

このオシリスの捜索と復活への協力といった彼女の献身的な行動は、彼女が後に死者の守護神、そして葬祭の女神として広く信仰されるようになる重要な契機となりました。彼女は死者を黄泉の世界へと導き、その魂を守護する役割を担うと考えられています。また、彼女は砂漠の辺境や危険な場所とも関連付けられることがあり、これもまた夫セトの混沌の性質との関連や、境界の守護者としての側面を示唆していると考えられます。

総じて、ネフティスは単に葬祭を司るだけでなく、家族内の複雑な関係性、そして死と再生のサイクルにおいて重要な役割を果たした女神と言えるでしょう。彼女の物語は、古代エジプト人の生と死、そして家族の絆に対する考え方を映し出しています。

関連項目

セト
アヌビス
オシリス
イシス
ゲブ
ヌト
ヘリオポリス九柱神
カノポス壺

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